モシュコフスキーは作曲家でありながら、ヴィルティオーゾのピアニストでもあった。そのためこの《15の練習曲》でも、高度なテクニックを要するものが多い。しかしいずれの曲も豊かな音楽性に富んでおり、コンクールや演奏会においてとりあげられる機会も多い。教育的には、ツェルニー40番を完了し、ショパンのエチュードに入る前段階の教材として用いられるのが一般的なようだ。
第1番:ホ長調/E-dur 4分の3拍子 ヴィヴァーチェ
はっきりした指の分離を意識しつつも、メロディの大きなまとまり(4小節単位)を感じながら弾くことが大切。また、音が高音域にある時、強拍をうまく利用することで華やかな印象が与えられる。
第2番:ト短調/g-moll 4分の2拍子 アレグロ・ブリランテ
冒頭から左手に連なる3連音符。fでしかもアレグロ・ブリランテで奏するにはなかなか訓練を要する。全ての音を均等に弾く練習も必要だが、最終的には拍の頭にある主要な音の動きを意識しながら、手首の回転を活かして奏するとよい。
第3番:ト長調/G-dur 4分の4拍子 ヴィーヴォ・エ・コンフォーコ
右手、左手、ともに3和音のところで、うまく響きが重なるよう聞きながら弾くことが大切。和音だけをとりだして弾く練習、16分音符の単音の音の動きをとりだして弾く練習なども有効である。
第4番:ハ長調/C-dur 4分の4拍子 アレグロ・モデラート
右手はレガートに。左手は、2つの音のうち、重心が上の音にくるように意識する。右手で、和音を弾きながら同時に単音で旋律を奏でる部分がでてくるが、あくまでもそれぞれが独立したタッチで弾けるように、わけて練習するとよい。
第5番:ハ長調/C-dur 4分の4拍子 ヴェローチェ・エ・レッジェーロ
なめらかに、軽く奏する。音階のための練習曲。曲集中では比較的易しめで取り組みやすい。pからffまで強弱に変化をつけて。
第6番:ヘ長調/F-dur 4分の4拍子 プレスト
曲集中、ステージで演奏される機会が最も多い曲。右手を転がるように軽く、なめらかに奏するためには入念な練習が必要。左手の音の進行も把握し、推進力のある演奏を心がけたい。歌うように奏する部分、おどけたように奏する部分など変化が楽しめると面白い。
第7番:変ホ長調/Es-dur 4分の4拍子 アレグロ・エネルジーコ
分散和音の練習曲。力強さが必要だが、力みにつながらないように注意。腕の力をぬき、その重みをうまく利用して弾くとよい。主要な音の動きを意識しつつ、分散した音のバランスにも注意を払いたい。
第8番:ハ長調/C-dur 8分の12拍子 アレグロ・エネルジーコ
手首の回転をうまく利用しなければならないのは第2番に共通する。しかし、3連音符の中に、和音が混ざっているので、難易度が高い。この曲においてはまず、和音の部分と左手でリズム感をつかむ練習をするとよいだろう。
第9番:ニ短調/D-moll 4分の2拍子 アレグロ
オクターブですばやく連打、移動するための練習曲。難易度は高い。pの部分では、手首の位置を支点に、手のひらを振り下ろすようなイメージで弾くとよい。
力まないことが大事だが、指先までやわらかくしていると音にならないので注意。fの部分では肘に支点をうつし、1回の大きなエネルギーで一息に弾くようにすると弾きやすい。
第10番:ハ長調/C-dur 4分の4拍子 アレグロ
一つの音を保持した状態で、残りの指を分離よく弾くための練習曲。指に負担がかかりやすいので、最初から無理に弾こうとせず、徐々にテンポをあげていくようにするとよい。保持している音は、ただ押さえるだけではなく、耳で追いつづけなければならない。
第11番:変イ長調/As-dur 8分の12拍子 プレスト・エ・コン・レジェレッツァ
第6番と並んで、演奏される機会が多い曲。指のなめらかな動きおいて、左右、バランスのとれたテクニックが要求される。高音部のきらめきや、音色が変化するときにみられるかげりなどを意識し、音楽的な演奏をめざしたい。
第12番:変ニ長調/Dis-dur 2分の4拍子 プレスト
第6番、11番と並んで、演奏される機会が多い。何度も同じ音型を反復しながら繊細に音色を変化させており、また、ひとつひとつの息が長い曲なので、注意深い耳と集中力が必要になる。
第13番:変イ短調/as-moll 2分の2拍子 モルト・アニマート
変化に富み、曲集中でもとりわけロマンティシズムを感じさせる美しさがある。
重音によるなめらかな動きが求められており、難易度は高い。全部の音を正しく弾こうと思うのではなく、脱力した腕の重みをうまく利用してそのエネルギーをどのように配分しながら弾くかを吟味するとよいだろう。
第14番:ハ短調/c-moll 4分の4拍子 モデラート
分散和音の練習曲。持続している音と、動いている音の音程を感じながら、響きをつくりあげていく。親指に重心を感じて奏する。
第15番:ロ長調/H-dur 4分の4拍子 アレグロ
重音による練習曲。第13番においては旋律がソプラノにあらわれていたが、この曲は旋律が上下どちらか一方の音にあらわれているわけではないところが非常に難しい。旋律の部分と伴奏の部分をしっかりわけて聞けるように練習に工夫が必要である。