リスト : 超絶技巧練習曲 第10番 S.139/10 R.2b ヘ短調
Liszt, Franz : Études d'exécution transcendante No.10 f-moll S.139/10
作品概要
解説 (2)
解説 : ピティナ・ピアノ曲事典編集部
(162 文字)
更新日:2020年9月1日
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解説 : ピティナ・ピアノ曲事典編集部 (162 文字)
第10番 ヘ短調(標題なし) / f moll
ヘ短調。はじめから題名のなかった曲で、何度も改訂を加えて練習曲として特殊なテクニックや書法の盛り込まれた作品となった。冒頭の左右交互の和音によるモチーフはagitatoのいらだちを表現し、その後も上行形とため息のような下降形とのモチーフがからみあい、最後まで不安定な印象を残す。
演奏のヒント : 大井 和郎
(1225 文字)
更新日:2018年3月12日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (1225 文字)
第10番 ヘ短調
この曲で最も大切な事は、冒頭の表示記号である「Allegro agitato molto」を常に意識することです。つまりはagitatoの限りを尽くすことです。甘美なメロディーを奏でてはならないのです。
常にagitatoでいなければなりません。冒頭2小節を聴いただけでこの演奏の良し悪しがわかります。Allegroもmoltoでなければなりません。14-15小節間、16-17小節間の左手の8分音符4つをみてください。このリズムとダイナミックだけを見ても、この曲の乱暴な性格がわかります。非常に激しいムードなのです。美しい曲ではないのです。
22小節目から始まる右手の主題をみてください。16分休符が拍毎に、メロディーの前に入ってきています。これはagitationの描写です。メロディーが裏拍から始まる曲は、このようにagitatoを描写する曲が多くあります(例:ショパンエチュードOp10-9)。 すべての小節は速いテンポで、激しく演奏されて然るべき曲です。一瞬の気の緩みもあってはいけません。奏者がよく誤解する箇所としては、78小節目のカデンツです。ここにはテンポを落とす指示は書いてありません。cresce moltoとしか書いていませんが、この79小節目をゆっくりと始め徐々にテンポを上げていく奏者がいます。それはまるで、蒸気機関車がゆっくりと動き出すような感じを受けます。そうではなく、ここは始まりから in tempoです。
159小節目のカデンツも同じです。ここは技術的にかなり辛い部分であり、ゆっくりから始まってテンポを上げていく、安全運転をする奏者が後を絶たないのですが、そのような指示は1つもありません。最初からin tempoです。ここは恰も、少し気がおかしくなった人が笑っているように弾きます。
そしてテンポで注意しなければならないのは、169小節目と170小節目のテンポで、これら2小節間のテンポは同じでなければなりません。しかし170に入った途端、テンポを上げる奏者がいます。よく数えて、169と170のテンポを一致させてください。同じく、181-182小節間が、それまでの倍のテンポにしてしまう奏者もいます。休符をきちんと数え、同じテンポで演奏します。
この曲はテクニック的に非常に困難な曲であることはまちがいなく、ゆえに、安全運転を試みるのか、または根本的な考え方が間違っているのか、その他の理由があるのか定かではありませんが、音楽的に誤解される演奏がとても多い曲です。音楽はすべての音楽が綺麗事で済まされているわけではありません。人間の醜い部分や激しい部分、反逆的な部分、などの表現もあります。時にピアノは打楽器的に演奏されることで激しさを表現する曲もあります。この曲に対して、洗練された綺麗な演奏を目指してはいけません。もっと激しい感情の表現であり、綺麗に演奏するのとは根本的に異なります。
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