【作品の基本情報】
作曲年:1831? 出版年:1838
献呈 :C・ディヴリ男爵夫人 A Madame la Baronne C. d’Ivri
【楽譜所収情報】
パデレフスキ版:No. 3/エキエル版:No. 3/コルトー版:No. 3/ヘンレ版:No. 3/
ペータース版(原典版):No. 3
ショパンの生前に出版された8つのワルツ(作品18, 34-1, 34-2, 34-3, 42, 64-1, 64-2, 64-3)の中で初めての短調によるワルツである。晩年に作曲・出版された「3つのワルツ」作品64でも二曲目に短調を置いており、いずれもショパンのワルツの中で、他に代え難い詩情を湛えている。
イ短調という調性、「Lento」という速度表示からも、舞踏会におけるワルツとは別次元の作品である。ワルツはポーランドにおいて、マズルカと並んで日常的に踊られていた舞踊であり、ショパン自身、ウィーンでは「ワルツが作品と呼ばれている!」と驚いていた。このイ短調のワルツがもつ一種庶民的な哀愁は、同時期に作曲された《ワルツ》作品18と好対照をなしており、1831年のウィーン滞在で、ショパンのワルツ観が大きく揺れている様子が感じ取れる。
曲構成は5つの楽想が一見気まぐれな順序で繰り返される(A-B-C-D-B-C-D-A-E-A)。しかし全体はやはり三部形式の変形である(A-B [bcd-bcd]-A [-E-A]))。16小節の憂鬱な冒頭主題Aは、低音の持続音、右手に配されたリズムパート、そして内声部の旋律、と声部配置は例外的だが、民族合奏団の器楽合奏を思わせる。この主題は最後に、経過部を挟んで二度繰り返される。やはり16小節からなるイ長調の主題D(第53~68小節)は、イ短調で反復されることによって、単純ながら微妙な感情の変化を見事に表現している。