ヒンデミット :組曲「1922年」 夜曲 Op.26-3

Hindemith, Paul:Suite "1922" Op.26-3 "Nachtstück" Op.26-3

作品概要

楽曲ID:22707
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:組曲
総演奏時間:7分30秒
著作権:要調査

解説 (1)

解説 : 千葉 豊 (1134文字)

更新日:2022年2月1日
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⒊ 夜曲 Nachstück 「非常に静かに、半分の音で。ほとんど表情を伴わずに。」

本楽章で言うところの「夜曲」は、J. フィールドやF. ショパンによって確立された「ノクターン」が指し示すものとは趣を異にする。単に抒情的で瞑想的な性格を有するというよりも、どこか非現実的な夢想世界を描くような音楽としての「夜曲」であると言えよう。本楽章の場合、作曲当時の大衆社会において単なる労働力と化した人々の空虚さや、そうした状況を生んだ物質主義的な消費社会に対する諦観と憤りを感じさせる、力のない響きが印象的である。

三部形式(ABA’形式)

楽譜上に拍子は指示されていないが、全体として3/2拍子で貫かれている。

A:第1~35小節

冒頭4小節のモティーフが、第11~14, 27~30小節でそれぞれ変形して繰り返される。前2楽章とは対比的に、テンポは遅く、音楽的な運動量も少ない。全体的にpが支配的で、低音域でバスが停滞する重苦しい音楽の中で、右手が主導する旋律は、上行しようとする意志を示しながら、音量をpppからffまで強める(第15~19小節)。しかし、頂点へ上り詰めたのも束の間、バスのG音上の短三和音の打撃がもたらす重力に引っ張られる形で、再びpまで弱められながら儚くも墜落(下行)する(第19~22小節)。

B:第36~65小節 「わずかに活気をもって Ein wenig belebter」

「非常に繊細でかすかに Sehr zart und leise」という演奏指示があり、Aよりも全体的に音域が2オクターブ程高くなることによって、夢想的な音空間を生み出す。第36~46小節までの息の長い大楽節が、第52~62小節で発展的に変奏される。

A’:第66~98小節 「静かに、始まりのテンポで」

Aの冒頭4小節のモティーフは音域を変えて再現され、第23小節からの4小節のモティーフはほぼ正確に再現される(第66~73小節)。その後、Aの冒頭4小節を起点とする大楽節が二度、発展的に変奏される。一度目は(第74~88小節)、第79小節から再び上行しようとする意志を示し、右手の跳躍を伴って音域的にも急激に拡大していく。しかし、第83小節でffに至ったのをピークに、第85小節からは「徐々に衰える allmälich zurückgehen」の指示と共に、三連符で半音階的に下行する不協和音の連続によって制圧される。二度目は(第89~98小節)、第95小節まで音域が次第に低くなり、音量もppまで弱められる。1小節分の休止を挟んで、最後の2小節は唐突に音域が約2オクターブ高くなり、これまで度々繰り返されてきたAの冒頭4小節のモティーフの前半部分が、pppで変奏されて終結する。

執筆者: 千葉 豊
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