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バッハ :平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第20番 前奏曲とフーガ BWV 889 イ短調

Bach, Johann Sebastian:Das wohltemperierte Clavier, 2 teil, 24 Praludien und Fugen Prelude und Fuge Nr.20 a-moll BWV 889

作品概要

楽曲ID:22542
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:8分20秒
著作権:パブリック・ドメイン
ピティナ・コンペ課題曲2024:E級級

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:発展1 発展2 発展3 発展4 発展5 展開1 展開2 展開3

楽譜情報:19件
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解説 (1)

演奏のヒント : 大井 和郎 (2739文字)

更新日:2018年3月12日
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第20番 イ短調 BWV889 プレリュード:  このプレリュードを音楽的に弾くことほど難しいことは無いとある友人が話していました。これまでのプレリュードと異なり、とらえどころが無いように見え、延々と同じ事が続くような錯覚に陥ります。このような曲に遭遇したらやはり何よりも「分析」が大事になります。分析することで見えなかったものが見えてくることもよくあります。  このプレリュードは2巻特有のリピートサインがあるプレリュードですので、前半と後半にすでに分かれています。まずは前半のほうから見ていきましょう。1小節目、半音階的に主題が下行してきます(右手)。同時に左手の伴奏も半音階的に下行しているのがわかります。そして2小節目は単純に上下の声部が入れ替わっただけに過ぎません。そしてこれら主題のメロディーの合間に、多くのシークエンスが入ってきます。それは時には2拍ずつであったり、1小節単位であったりします。次に1小節目と同じパターンのテーマが来るのは、4小節目になり、ここではe-mollに転調しています。そして5小節目は2小節目と同じく、左右が入れ替わっただけに過ぎません。このようにして、シークエンスを無視して、主題の調性だけを追っていきます。  すると、8小節目でC-dur(C-durには聞こえないかもしれませんが、左右の音を入れ替えて、右手の音型をヘ音記号で弾くと解りやすくなります)、9小節目でG-dur、11小節目でd-moll、13小節目でa-mollに戻ります。  もう一度出てくる調をまとめます。 A-moll E-moll C-dur G-dur D-moll A-moll  C G D A E と並び換えると、完全5度ずつ各調が離れていることがわかりますね。  さて、音の高さのほうに注目してみましょう。このプレリュードの前半では8小節目の1拍目右手のCが、最も高い位置にあることがわかります。つまりはC-durに移調した箇所での音符の高さが最も高い位置にあることになります。  次に、主題と伴奏の位置関係を考えてみます。1-2小節間のように、主題と伴奏が1オクターブ以上離れている主題もあれば、11小節目のように、かなり接近している主題もありますね。  そしてこのプレリュード前半の最後の小節を見てみると、a-moll で終わってはいるものの、明らかにドミナント(V)で終わっていますね。つまりテンションは高く前半が終わることになります。  これら、多くの事実を総合的に鑑みて、奏者の主観にも委ね、このプレリュードの前半の強弱を決めていきます。音が高い位置にあるからといって、フォルテと決めるのではなく、多くの事実を総合的に判断します。筆者はこのプレリュードはオルガンで演奏されたのではないかと想像しています。もしかしたら各調によってパイプの種類が変わったかもしれません。例えば11小節目などは、わりと太いパイプではないかと思いますし、a-mollの主題とe-mollの主題もパイプの種類が異なるような気がします。  そうやって、強弱を決定すると良いと思います。  後半ですが、a-mollのドミナントで前半が終わりましたので、やはり同調のドミナントから始まります。17小節目、左手に主題が来ています。一見1小節目の主題と似ているように思ってしまいますが、実は後半では初めて主題が上行します。1拍目は下行して、2拍目から半音階的に上行し、  4拍目で下行します。今までと真逆なパターンですね。このプレリュード全体を考えた時、筆者は個人的には27小節目が最もテンションが高く、音量的にも大きい感じを受けます。  そして、例により主題が2つ同時にダブるのが31小節目の1拍目です。前半・後半と比べたとき、後半の方がテンションの高まる部分は多くあります。奏者は、どこに山の頂上を持って行くか吟味して下さい。 フーガ:  とてもレアなフーガです。フーガの主題というのは実は2種類ありまして、リアルアンサーとトーナルアンサーの2種類です。これは言葉で説明をするよりも見た方が速いですので1小節目を例にとって説明します。主題は1小節目、2拍目より2小節目1拍目で終わると仮定します(勿論これよりも尺の長い主題と考える人もいると思います)。そうすると、この4つの音は、E からCが長3度、CからFが完全4度、FからGisが減7度という音程になりますね。これをまず覚えておき、2つ目の主題が出てくるのが3小節目のアルトです。この主題は、A G C Dis になり、それぞれの音程は、長2度、完全4度、減7度となり、最初の音程が異なりますね。  本来は、H G C Disとなるのが正しく、これをリアルアンサー、つまり本当の答えという事になり、実際に書かれている A G C DIsは、調性を考えた時に選ばれた音であり、これをトーナルアンサーと呼びます。  このフーガ、リアルアンサーを求めていくと、曲中3つしか出てきません。従って、トーナルアンサーも含めての主題となるのですが、実はそれだけにとどまりません。例えば10小節目のバス、1-3拍間に書かれてある3つの4分音符はどうしても主題に聞こえてしまいます。この場合最後の音程は減7度では無く短7度ですし、第一、1つめの音がありません。1つめの音を前の小節の8分音符と考えることもできることはできるのですが、このような、主題の条件としては実にぎりぎりな条件として登場する主題が多くあります。厳しい考え方をする人であれば、主題とは見なさず、結果、それらをはっきり聴かせることの無い演奏になるかもしれません。その辺りの判断は奏者に委ねられます。  もう一つ重要な事としてアーティキュレーションの問題があります。これはバッハが実際に書いたものかどうかは定かではありませんが、珍しく、2小節目の8分音符にはスタッカートマーキングがつけられています。筆者が助言をするのであれば、最初の4つの4分音符はレガートにせず、次の音符に進む直前に少し切ってしまって良いと思います。その方が後々演奏も楽ですし、この主題のムードは決してなめらかなものでは無い事を伝えることができます。その上で、例えば10小節目の3拍目のバス、Hは4分音符ですので、他2声がかなり高い位置に離れていても、4分音符分は伸ばすように、音価をしっかり守って演奏することで声部の独立を目指すことができます。  ピークポイントは21-22小節間と筆者は感じますが如何でしょうか?とても堅く、決然としたフーガです。あまり横に流れすぎないように気をつけると良いでしょう。

執筆者: 大井 和郎

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