シベリウス :5つの小品(樹木の組曲) 樅の木 Op.75-5

Sibelius, Jean:5 Pieces "The fir" Op.75-5

作品概要

楽曲ID:21421
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:3分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:発展2

楽譜情報:6件

解説 (1)

演奏のヒント : 大井 和郎 (1859文字)

更新日:2018年3月15日
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この曲は即興的奏法が必要とされる曲です。ですからメトロノームからは遠ざかり、自由に弾かなければなりません。しかしながら流れを良く理解しておかなければ、単なるアルペジオが連続して弾かれるだけに過ぎなくなります。いつでもゴールはどこか、ピークはどこか、今は何処に向かっているのか、等を把握することで曲を纏めること出来ます。

まず1小節目から見ていきましょう。Strettoとかいてありますが、1小節目に既にallargandoが出てきます。テンポの急激な変化を意味します。allargandoを利用して2小節目のLentoに自然に繋げると良いです。

さて1小節目の6つのアルペジオで注目すべきは各アルペジオの最も高い位置にある音です。それだけを抜粋すると、Fis E E D D Cisになりますね。2度ずつ3回に分けられ下行しています。これを覚えておきましょう。

メロディーらしいメロディーラインは3小節目から始まります3小節目の8分音符には全ての音にアクセントが付けられていますね。ハッキリとマルカートで即興的に演奏します。3小節目のメロディーラインは、4小節目でH、5小節目でCis、6小節目でCisです。次のフレーズは7小節目から始まり、8小節目でD、9小節目でCis、10小節目でCisになります。次のフレーズは11小節目より始まり、12小節目でH、13小節目でFis、14小節目でHとなり、この最後のフレーズだけがアルペジオのラインであることがわかります。ここまでで1つのセクションとします。そうするとこの3-15小節間に入ってくる4つのフレーズで、8分音符を抜かした付点2分音符のメロディーだけを抜粋すると:

HCisCis DCisCis HFisH

ですね。

次を見ましょう。16-22小節間です。同じように付点2分音符のメロディーを抜粋すると、HEAGCisFis であり、これは音階を辿らず、4度か5度の進行であることが分かります。

次に、24-30小節間を見ましょう。同じように付点2分だけを抜粋してみます。するとメロディーラインは、D Cis Cis H H Fis H であり、3-15小節間の8小節目から始まるメロディーラインとほぼ一致しますね。31-39小節間は16-22小節間が単にオクターブ下がっただけに過ぎません。

次の40小節目はカデンツになります。ここで1つ1つのアルペジオの山で、最も高い音だけを抜粋していきますと、D Cis E Dis Fis E A G H Ais D Cis でフェルマータになります。2度ずつペアになっているのがおわかりになるでしょうか?

フェルマータの後の考え方は2つあります。1つ目の考え方は今までと同じようにアルペジオの山の最も高い部分にある音を抜粋した場合です。そうすると、

Fis H E A D G Cis Fis H A G Fis

となり、最後の4つを除けば、5度と4度で進行していますね。もう1つの考え方は、フェルマータの後から1個飛ばしで高い音を追います。まずFisが来ます。次はHなのですが、この山を飛ばし、次に行きますとEになり、また次の山を飛ばします。そうすると結果的には:

Fis E D Cis H A G Fis と綺麗なオクターブの音階になることがわかります。

その先、やはり各アルペジオの一番高い音を抜粋すると、Fis E E D D Cisになり、1小節目のラインと一致しますね。

さて、ここまで分析したのには当然のことですが、これらの情報を踏まえた上で、ダイレクション(方向性)を定め、進んでいくことができます。例えば、Fis E E D D Cis は下行していますが、最後のCisに向かっていくと考えることもできます。

D Cis E Dis Fis E A G H Ais D Cis は、DよりもCisを弱く、EよりもDisを弱くと、2つ目の音を1つ目よりも弱くする秩序を保ちながらクレシェンドしていくことも1つの考え方になります。

最終的にどのような考え方であったり、方向性であることは自由です。しかしながら一応のガイドラインを理解した上でという話しになります。学習者の方々は担当の先生とご相談の上、音楽の作り方を決めてみて下さい。

ところでシベリウスという作曲家ですが、これほど変わった作曲家も他には居ないのではと思うほど変わっています。発想そのものが他の作曲家とは大きく異なります。他のシベリウスの作品も多く聴く事をおすすめします。

執筆者: 大井 和郎