この曲で気をつけることはテンポの問題です。Adagioと書いてあると、かなりゆっくり進む感覚がありますが、実際のオーケストラとピアノの演奏では少し事情が違ってきます。音を一定の音量で伸ばすことのできる弦楽器や木管楽器とは異なり、ピアノは音量が衰退していく楽器です。そして一つ一つの音に対してそれぞれアタック音が発生してしまいます。そのような、非音楽的な楽器で、このように横に流れなければならないオーケストラの曲を演奏する時、ある程度テンポを速めないことには音楽的に演奏することができません。
もう少しわかりやすく説明をすると、例えば、付点2分音符や全音符などの長く伸ばす音符を伸ばしている時、ピアノの場合、別の声部が入ってくることでとても聴きにくくなります。どうしても、伸ばし続ける音よりも、動いている別の声部の方が耳に届くからです。実際に演奏してみるとよくわかりますが、ポリフォニーの秩序を守るためには、少しテンポを上げた方が弾きやすいことがわかります。
冒頭に書かれてある、molto espressivo e rubato を守り、あたかも小節線が書かれていない音楽のように、拍を必要以上に感じず、自由に弾いてください。
12小節目から始まる、accelとritは交互に現れます。12小節目からは2声になります。あたかも2人の異なったキャラクターが会話をしているように弾きますが、accelが書かれてあるほうのキャラクターは感情をむき出しにして、ritが書かれてあるキャラクターがそれをなだめているというような掛け合いとお考えください。そして18小節目あたりから、accelとritは無くなりますので、感情面での落ち着きを取り戻したと考えます。
さて、曲を大きく見た時、区切られる部分は22小節目で一区切り、そして35小節目で一区切りになります。音を追ってみましょう。仮に、1つ目のフレーズが12小節目から始まったとします。上の声部に注目します。最高音がFですね。13小節目でEs、14にDがあり、15でDes、16でC、17でB、20でAs、21でG、というように音階を下行してますね。そして22でEになります。このEはこの曲の調であるF-mollの導音です。
22小節目のEは本来はFに行くべきなのですが、そのFがありません。変わって35小節目のEも音階を下行してたどり着いたEです。これは次の小節でFに行っていますね。このEは、言わば、カデンツ的な音で、フレーズがたどり着くゴールと考えます。そのような考え方をした時、このEの音量は決して小さくありません。とても存在感があるように、ゴールの音として大切に弾いてください。
さて、最後の小節ですが、2拍目8分音符のFは、多分コントラバスなどのpizzicatoではないかと思います。上は全音符が書かれていますので、これを伸ばした上でFをスタッカートに弾きたいのですが、全音符の距離が離れすぎていて、片手では弾けません。両手で弾くと今度はFを弾くために全音符を伸ばすことはできません。かといってペダルを使うと今度はpizzicatoができません。
ここは、真ん中のソステヌートペダルを使い、全音符を伸ばし、左手でFをスタッカートで弾きます。