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ダマーズ, ジャン=ミシェル :春の狂詩曲(ピアノと管弦楽の為の)

Damase, Jean-Michel:Rhapsodie de printemps pour piano et orchestre

作品概要

楽曲ID:19043
出版年:1960年 
初出版社:Éditions Musicales Transatlantiques
楽器編成:ピアノ協奏曲(管弦楽とピアノ) 
ジャンル:管弦楽付き作品
総演奏時間:17分00秒
著作権:保護期間中

解説 (1)

解説 : 西原 昌樹 (1723文字)

更新日:2021年10月19日
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1957年に作曲されたピアノと管弦楽のための協奏作品で、1959年にパリ市音楽大賞(Grand prix de composition musicale de la ville de Paris)を受賞した重要作である。作曲者自身がソリストをつとめた初演時に管弦楽を指揮したアンドレ・ジラール(André Girard)への献呈。映画祭で知られる南仏の保養地カンヌでの再演(1960年1月14日、ジャック・バジール指揮。作曲者によるピアノ)、パリでの再演(1962年1月15日の国営放送。ディミトリ・コラファス指揮、フランス公共放送フィルハーモニー管弦楽団。作曲者によるピアノ)の記録があるほか、バレエ化もされ、バレエ版の上演記録もある(1962年1月18日、オペラ=コミック座にて。振付ジャン=ベルナール・ルモワーヌ、舞台美術と衣裳ジャン・ツァミス、指揮リシャール・ブラロー、作曲者によるピアノ、主演ジャン=ベルナール・ルモワーヌとクリスチャンヌ・ヴラッシ)。

切れ目のない三部構成であるが、実質的には急、緩、急の三楽章制ととらえられる。第一部アレグロ・モデラート、4分の4拍子、ハ短調(調号なし)。息の長い朗々たるメロディで開始するが、メロディにからみつく32分音符が目覚めのときを迎えた生命の蠢動を表す。やがてピアノソロが前面に出ていっそう目まぐるしく動き回り、つやつやとした植物の芽吹き、殻を突き破って変態していく動物たちの躍動を活写する。第二部アンダンテ、4分の3拍子、嬰ハ長調。泣きのメロディでしみじみとしたノスタルジーを心ゆくまで歌い上げる。まぎれもなく、初期ダマーズ随一の絶唱である。第三部アレグロ、4分の4拍子、ハ長調。いよいよ春本番の舞台が準備万端ととのった。ここからは、光輝くまばゆい季節の到来をことほぎ、華やいだ歌と踊りが息をもつかせぬ勢いで繰り出される。終盤には第二部のメロディが怖いほどの迫力で回帰し、目もあやなラストに向かって全力疾走する。技巧の粋を凝らしたピアノソロパートはもとより、《交響曲》Symphonie(1954年6月4日、ストラスブール音楽祭にてシャルル・ミュンシュ指揮のフランス国立管弦楽団により初演)で見せた鮮やかなオーケストレーションの手腕が本作でも遺憾なく発揮されて見事である。とりわけ、ピアノソロが折々にオーケストラのバックに回り、オーケストラと一体化して色濃い音響を丹念に織り上げていくさまは圧巻で、サン=サーンスラヴェルのコンチェルトというよりも、ダンディの《フランスの山人の歌による交響曲》を思わせるものがある。ダマーズがフランスの保守派の全ての潮流の最も正統な末裔にして最後の嫡子であったことが、ここで実作の上にはっきりと証だてられているといってよい。

それにしても、たたみかけるように押し寄せてくる旋律美を何と形容すればよいものか、言葉が見つからない。確かに、美しいといえばこれほど美しい音楽もない。一聴して映画音楽のようではないかと言う人もいるかもしれない。しかし、それだけではない。1950年代までのダマーズ作品は、美しい中に一滴、ぞっとするような凄みを漂わせていて、この上もなく優雅な外観をした本作も、その内側に微量の狂気が確実にひそんでいる。それがまた、美しさの陰影を深め、くっきりときわだたせる。あえて言うならば、同じ早熟の天才でも、初期のフランセにはなく、初期のダマーズには決定的にあったのはこの妖魅の気にほかならない。それは人の心をからめ取り、もてあそび、引きずり回す危険をはらんだ、不吉なまでの美である。20世紀のクラシック音楽にあっては、まことに稀有な美のかたちであったといわざるを得ない。端正な室内楽曲ばかりではなく、こうした大規模編成の真の傑作も広く親しまれることをねがってやまない。若き日のダマーズの冴え冴えとした才能の輝きが、実演によって必ずよみがえる日が来ると確信するものである。

執筆者: 西原 昌樹
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