ヴィルヘルム・ミュラー(1794~1827)の詩集に基づく連作歌曲集。原詩集は1816年秋に成立し、抜粋で雑誌などに掲載された後、1821年に前口上と納め口上を含めた25篇の完全版が出版された。1823年にシューベルトはそのうち20篇を抜粋し、詩集の順序どおりに曲を付した。
歌曲を連作するという理念は、ベートーヴェンが1816年に作曲した《遥かなる恋人に寄せて》(作品86)にまで遡ることができる。しかし、シューベルトの《美しき水車小屋の娘》は、先行する歌曲集と規模の上で一線を画しており、一つの詩集に基づいた大規模な連作歌曲集の先がけとして、ドイツ歌曲史において特別な位置を占めている。
詩の主人公は、粉挽き屋を目指して修業する若人である。ヨーロッパでは中世以来、商工業者が同業者組合を組織しており、商工業で手に職をつけたい若者は、徒弟として親方のもとで修業を積む必要があった。そして、ある程度の腕が認められると職人として親方の間を転々と渡り歩き、試験を受けて親方になると一家を構えられるという仕組みを取っていた。詩では、粉挽き屋で修業を積む若人の視点から、美しい娘に恋をする物語が紡ぎ出される。
粉挽き屋では水車を用いて小麦粉を挽くため、小川は仕事と不可分な存在であり、物語の筋に対しても重要な役割を担っている。主人公はまず「さすらいWandern」が曲集のテーマであることを告げ(第1曲)、友である小川に連れられるがまま(第2曲)ある水車小屋に辿り着くと(第3曲)、美しい娘と出会う(第4曲)。娘に惚れた主人公は、「僕の心は君のもの」(第7曲)、「愛する水車小屋の娘は僕のもの」(第11曲)と自身の恋心を詠う。相手の心情を推し量っては揺れ動く自身の心境が描かれた後、狩人の登場(第14曲)を転機として、娘の心が狩人にあることを知る(第15曲)。主人公は小川に失意を吐露しつつ、小川の子守歌に誘われて入水し、幕となる(第20曲)。