2010年に作曲。大井浩明氏により初演。
わたしは作曲する時、演奏家のキャラクターや、作品が演奏されている風景をイメージすることが多く、この作品もその系列の一つである。
2009年春、一部編曲のお手伝いをした《大フーガ》を含むベートーヴェン作品群を、大井氏が各時代楽器で演奏するBS放送を見た。クラヴィコードからフォルテピアノまでの数種の楽器が、(いずれもグランドピアノより小さいこともあっただろうが)わたしには奏者に包容されているように見えた。その印象は、ピアノの演奏に間近で接してみても変わらなかった。奏者と楽器が対峙しないピアニスト、ピアノを包容できる奏者は極めて稀であろうし、それは彼の類い稀な資質であろう。そして、その姿にラッコ、トド、オットセイ、アシカetc.愛らしくも恐ろしげでもある海獣たちが重なって見えたのは、とても自然なことだったと思う。そういえば武満徹は鯨に憧れていたことを、いまふと思い出した。
この曲は、海獣たちの祝福の踊りのなかで幸せに包まれたハッピーエンドを迎える。