坂本 龍一 :リトル・ブッダ
Sakamoto, Ryuichi:Little Buddha
総説 : 仲辻 真帆 (796文字)
映画の魅力を増幅させるのが、坂本龍一の作る音楽である。 『リトル・ブッダ』は1993年に公開された映画で、監督はベルナルド・ベルトリッチ。坂本とベルトリッチは、『ラストエンペラー』(1987年)、『シェルタリング・スカイ』(1990年)で共に作品を作っている。 この『リトル・ブッダ』のために坂本が作曲したのは46曲、即興的な要素の強いインド音楽を含めると76曲にものぼる。官能的なまでに甘美な弦を中心とした音楽や、インドの民族楽器を織り込んだ音楽など、いずれもどこか均整がとれており抒情におぼれることがない。曲調、楽器編成から音程まで様々な面において、映画のシーンに合わせて音楽が構成されている。 映画の最後に流れるエンドテーマは、クレジットの部分を含めると9分を超える。ベルトリッチ監督の「悲しいんだけど、救いのある音楽を」という、文学的かつ抽象的なリクエスト※があり、4度の書き直しを経て仕上げられた。輪廻転生を描く映画の内容は、音型や楽曲構成の中に少なからず反映されているだろう。映画においては、管弦楽の圧倒的な響きとそこから湧き上がってくるようなソリストの切々たる歌唱が深い印象を残す。ピアノで独奏する場合は、細やかな強弱変化と長いフレージングによって作品の持つ壮大な世界観を表したい。 映画におけるメインテーマは、演奏時間にして約3分弱である。ピアノ独奏譜を見ると、大半が全音符か2分音符で、8分音符や3連符、装飾音はわずかしか用いられていない。演奏において求められるのは技巧ではなく、深みのある音色であり表現力であろう。ピアノならではの色彩豊かな和声感や胸を衝くような高音部分をいかに弾くか。とりわけ半音が重ねられた繊細な響きは、それぞれの音の大きさ、タッチに充分留意しながら演奏する必要がある。 ※注:『Little Buddha』(発行:東宝、1994年)より引用。
リトル・ブッダ
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