メンデルスゾーン=ヘンゼル, ファニー ツェツィーリエ 1805-1847 Mendelssohn-Hensel, Fanny Cacilie
解説:宮崎 貴子 (1879文字)
更新日:2018年3月12日
解説:宮崎 貴子 (1879文字)
ドイツの作曲家、ピアニスト、指揮者。フェーリクス・メンデルスゾーン(1809-1847)の姉として知られる。父方の祖父モーゼスは著名な哲学者、父アブラハムはドイツ屈指の銀行の創設者というユダヤ系名門一族としてドイツのハンブルクに生まれた。母方の叔母はJ.S.バッハの息子や弟子に鍵盤楽器を師事しベルリンやパリで人気の音楽サロンを運営した人物で、母親自身もピアノを弾き歌い、語学も堪能だった。ファニー6歳のとき、ナポレオン戦争によるフランス軍のハンブルク占拠を受けて、一家は故郷ベルリンに移り住む。 ファニーとフェーリクス、その下に誕生した妹と弟の4人の子供たちは、教育熱心な両親が雇った家庭教師たちから最高の教育を受けた。中でもファニーとフェーリクスは音楽に並々ならぬ才能を示し、マリー・ビゴー夫人(ハイドンやベートーヴェンから高く評価されていた)やルートヴィヒ・ベルガー(有名なベートーヴェン弾き)らからピアノのレッスンを受け、作曲と音楽理論をツェルター(1758-1832)に師事した。 ファニーのピアノの腕は誰もが認めるほどで、13歳の時父の誕生日に、バッハの《平均律クラヴィーア曲集》の前奏曲全曲を暗譜で演奏し驚かせたという。初めての作品は14歳で作曲した歌曲で、以降歌曲は彼女の作品の多くを占めることとなる。特にゲーテの詩による歌曲は多く、ゲーテ自身もファニーの作品を大変気に入り、直々に詩を贈ったほどであった。 ファニーの才能は誰もが認めるところではあったが、当時の社会は上流階級の女性に対して、「女性の一番の仕事は主婦業であり、何よりも家庭を穏やかに賢く切り盛りすること」を求めた。教養の高さはステータスにはなるが、それはあくまで内輪でのみ発揮されるべきもので、ファニーにも弟フェーリクスの良き理解者という立場が求められた。実際フェーリクスも姉の能力を全幅に信頼しており、音楽的助言はすべて姉に求めたし、ファニーも弟の成長を見守り作品に具体的な助言を与えるという親密で強固な関係ができあがり、たとえば「フェーリクスは自分の思いつきを私に相談なく書き付けることはしないため、はじめの音符が書き留められたときにはもう私は彼のオペラを全部暗記して知っていたほどだ」ということにもなった。音楽史上の偉業、J.S.バッハの《マタイ受難曲》復活上演に際しても、23歳のファニーは弟と共にオーケストラや合唱を指導し、その上演を成功裡に導いている。 同年宮廷画家のヴィルヘルム・ヘンゼル(1794-1861)と結婚。広大な実家の敷地内に新居を構え、翌年には息子が誕生する。創作意欲の波に悩むこともあったが、自らも芸術を仕事とする夫が当時としては珍しく彼女の活動を積極的に後押ししたため、音楽活動はむしろ活発に行われた。そのひとつが『日曜音楽会』の開催だ。これはもともとフェーリクスの作品発表の場として子供時代に両親が開いていた自宅での催しをファニーが引き継ぎ、企画構成、出演交渉など全て行って、自ら組織した合唱団を指揮してリハーサルを重ね、もちろん自分がピアニストとして出演もするという、アカデミックな色の濃い催しである。無料で質の高い音楽が聴けると口コミで評判が広がり、最盛期には300人余の客が押し寄せるほどであった。 ファニーの作品は500曲以上といわれ、その多くが歌曲かピアノ曲で、他にオーケストラ序曲、ピアノ三重奏曲、弦楽四重奏曲、合唱曲などがある。 自作の出版に関しては父、父亡き後は弟のフェーリクスから反対されており、悶々と悩ましい年月を過ごした。幼い頃からこと音楽に関してはまるで「2人でひとつ」のようにお互い支え合い依存し合ってきただけに、ファニーにとってフェーリクスからの同意と応援は何よりも大事なものであった。しかし夫や外交官でアマチュア音楽家の友人コイデルらに励まされ、41歳になったばかりの12月、ついに弟の許可なくベルリンの出版社から作品1の歌曲集が出版される。するとようやくフェーリクスも表向きには祝福の言葉を送り、それに勢いを得たファニーは翌年にかけて作品2から7までの歌曲集とピアノのためのメロディーを編纂、順次出版された。 しかしいよいよこれからと思われた矢先、ファニーは日曜音楽会のリハーサルの最中に脳卒中で倒れ、急逝してしまう。初出版から半年も経たない5月だった。 一心同体のような存在の姉を亡くしたフェーリクスは打ちひしがれ、作品8から11までのファニー遺稿集を出版社に託すと、半年後同じ脳卒中の発作により亡くなった。
作品(13)
ピアノ独奏曲 (8)
ソナタ (2)
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種々の作品 (3)