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エーベルル :グランド・ソナタ Op.12

Eberl, Anton:Grande Sonate Op.12

作品概要

出版年:1802年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ

解説 (1)

総説 : 丸山 瑶子 (6510文字)

更新日:2018年3月12日
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性格的大ソナタGrande sonate charactéristiqueと題された大規模なソナタで、エーベルルのロシア滞在中、1802年に出版された。Edition HHから出版された楽譜の校訂者であるクリストファー・ホグウッドは、第1楽章序奏における付点リズムや、主部Allegro agitatoに目立つ両手の交差に、ベートーヴェンの《悲愴ソナタ》作品13との関連を見出している。 第1楽章 Grave Maestoso 3/4拍子 ヘ短調  I. 序奏  二重付点を含む厳かな和音進行で始まる。第5小節からは8分音符の単調な和音伴奏に支えられ右手が旋律を紡いでいく。冒頭4小節には序奏全体の基本要素が呈示されている(第5小節以降の旋律を構成する3度の跳躍上行、順次下行の動機は序奏第2—3小節に、ターン付きの上行音型と伴奏のリズムは、第4小節に既出である)。ひとたび8分音符のリズムが始まると、音楽は安定することなく進む。調性は第5小節からDes-Dur、b-Moll、f-Moll、と移ろい、両手は鍵盤上を徐々に下方へずれていく。第14小節以降、旋律のターン動機は高音域と低音域を交替し、和声的にもまだf-mollかc-mollか不明確で、まだなお安定感を欠いたままだが、和声的には主調のドミナントであるc音が低音に保続され、序奏と主部を繋ぐ半終止が準備される。 II. 呈示部 Allegro agitato 2/2拍子  1. 主要主題部  アレグロの冒頭主題の楽節構造は古典派に典型的な8 (4+4) 小節で、後楽節はドミナントに半終止する(第26小節)。その後、第37小節まで、形式の上でも動機の上でも互いに関連性の薄い楽句が並列される。アジタートの楽想指示にふさわしく、テンポや強弱の交替によっても音楽の内容はせわしなく変わっていく。  第38小節からDes-Durで、アレグロの冒頭主題が途中まで再現する。第44小節でb-Mollの和声進行へ移ると、音楽は主題のもとの楽節構造を離れ、副主題群への移行が始まる。和声に着目すると、主題が再現する際にDes音上ではなくF音上で始まっており、エーベルルが主題再現を、アレグロの冒頭からの調性の変化を曖昧な状態で始めようと工夫したと推測される。またDes-bという調プランは意図的に序奏と対応させたものと考えられる。第46小節からは、短調のソナタ形式楽章に典型的な楽章主調の平行調As-Durで、新しい動機によるゼクエンツが始まる。以降、書法の異なる楽句が短い間隔で入れ替わり立ち替わり現れ、第63小節でAs-Durのドミナントにフェルマータで半終止してようやく、音楽は明確な区切りを得る。  2. 副主題部  副主題群(第64小節~)は、形式構造、動機、和声といった様々な点で主要主題群と共通点を持つ。まず形式的には、8 (4+4) 小節構造の楽節に、長さないし動機が互いに異なる楽句が続く(第71-75小節、第75-81小節)。そして、再び副主題群冒頭と類似した楽節が、主題とは異なる調(副主題のAs-Durに対し、b-Moll)で現れる。こうした構成が、主要主題群と同様である。ただし、ここでは主要主題群とは異なり、主題旋律が再現することはなく、副主題と共通の動機やリズム構造を持つ新しい音楽が続く。また動機も、付点8分音符と32分音符から成るトリルを伴う装飾的な音型(第71-75小節)やシンコペーションのリズム(第75-81小節)が主要主題と共通する。これらの音型やリズムは序奏にも通じるものであり、これによって各部分間が互いに関連付けられている。  再び和声がAs-Durに全終止すると(第87小節)、アレグロの冒頭主題が再現する。主題後半は変形されて、主題のシンコペーションの動機による2小節の楽句が繰り返され、As-Dur主和音が強調される。3回目の繰り返しで右手のリズムが三連符になって加速し、繰返された動機に直結する形で、両手は第101小節の全終止に向けて高音域から徐々にオクターヴ以上下行する。このリズムの加速と両手の大きな身振り、そしてpの指示と交替で一拍おきに現れるfzのアクセント、さらには初め弱拍にあったこのfzが強拍へ変更するといった強弱の揺れが全て相まって、呈示部のクライマックスを形成している。第102小節から主音Asの保続音上でもう一度Allegro冒頭主題が現れ、コデッタに入る。  III. 展開部  展開部はAs-Durの主音から始まるが、第七音の下方変位であるGes音を軸として、直後にb-Mollへ転調する。展開部全体は動機に基づいて区分すると5部分から成り、先述したb-Mollから主調f-Mollに戻るまで更に転調が続けられる。第1の部分では、コデッタに由来する跳躍音型と呈示部で再三現れたシンコペーションのリズム動機に基づく(第119-135小節)。続く8 (4+4) 小節の動機は、旋律、伴奏ともに直前の部分から派生している(第135-143小節)。第3、第4の部分(第143-148小節、第148-154)では六連符の分散和音が絶え間なく続き、音楽の推進力が増す。なお第144、146小節の動機は呈示部第30小節の動機の変形として捉えられる。また第4部分では弱拍から次の小節の第1拍に向けて上行する動機が、伴奏を超えて高音域と低音域に交替するのだが、これはコデッタないし展開部の第1部分と共通である。展開部最後の部分では、f-Mollのドミナント上で右手が2オクターヴ上行、そして下行と大きな弧を描いて動き、Allegro主部の冒頭主題再現を導く。  IV. 再現部  再現部(第157—233小節)は呈示部に比べ大きく短縮されている。その要因は主に、転調領域やアレグロの冒頭主題の度重なる再現が省略されたことにある。主な変更は以下の通り。呈示部第31-37小節に対応する部分は新たな楽句に書き換えられ、再現部では行進曲風の付点リズムの動機が徐々に音高を下げながら繰返される。ここで和声はドミナントとトニックが交替し、主調f-Mollが強調されている(再現部第171—174小節)。Allegro冒頭主題再現を含む第37—63小節の転調領域は再現部では省略され、第174小節のドミナントの解決は、楽章の主調f-Mollによる副主題群再現の開始と重なっている。  副主題群では、呈示部第87小節からの主要主題の部分的な再現と、それに続く2小節楽句が省略される。それに対して、呈示部コデッタ直前の三連符を伴う音階下行は、両手を交差して延長される(第97—101小節、再現部196—203小節)。コデッタはほぼ型通り再現されるが、終止部分は呈示部から変更されている。すなわち楽句は全終止ではなくf-MollのVIの和音に偽終止し(第217小節)、新しい5小節の楽句が挿入される。この楽句でも全終止は避けられ(第222小節)、主和音の第一転回形上で再現部第196—199小節が変化・再現する。続く和音進行も主調f-Mollの終止カデンツを辿るものの、全終止は未だ現れない。極めつけに、第226—227小節においてf-Mollの属和音から半音進行によりドミナントc-Mollの減七和音、そしてフォルティッシモでf-Mollの減七和音が連続する。この強烈な不協和音を最後に和声的緊張は緩み、第329小節でようやく主調主和音の全終止へ進み、残り5小節では主調のドミナント、トニック進行が再確認されるように繰返され、力強い主和音で楽章が閉じられる。 第2楽章 Andantino 6/8拍子 嬰イ長調  ||:A:|| B A’の三部形式。冒頭の付点リズム動機、ないしはターン付きの上行音型が、楽章全体の基本動機になっている。A部(8 [4+4]小節)は前楽節で主調As-Durのドミナントに半終止、後楽節でドミナント調Es-Durに全終止する。  B部ではEs音の保続音に支えられ、楽章冒頭の動機が、旋律進行を僅かに変えた形で繰返される。旋律動機が低声部に移ると、和声もes-Mollに転旋し、先の2小節との陰影が生まれる。  A’部ではまず、楽章冒頭4小節が再現するが、ここで旋律は装飾的に変奏されている。後楽節は大きく変更され、f-Mollの第VI音上に偽終止する。続く2小節では、左手の旋律声部が主音As音を繰返して主調を確定する傍ら、右手の半音進行がDes-Dur、as-Mollの響きを鳴らし、和声的な彩りを添えている。最後は右手に戻った旋律声部が、典型的な終止カデンツに支えられつつ音域を下げていき、強弱もpからppへ静まり、楽章中の最低音であるAs’音上に終止する。 第3楽章 FINALE Allegro assai 2/4拍子 ヘ短調  全455小節という非常に長大なソナタ形式のフィナーレ。音階下行が主要主題、移行部、副主題など、楽章内の様々な部分の主要動機となっている。  I. 呈示部  1. 主要主題部  主要主題は8(4+4)小節構造で、後楽節で半終止する。主題冒頭4小節は直後に旋律をオクターヴ進行に変えてfで繰返され、第3—4小節の動機から挿入的な楽句が紡ぎ出される。ここで和声進行は一度As-Durに逸れてから主調f-Mollへ戻るのだが、再び戻ってきた主調を確定するように、第19小節からf-Mollの典型的な終止カデンツによる2小節の楽句が3回連続する(ただし低声部は第25小節で初めて根音に解決する)。またこの部分で用いられるf音からのターン音型は、続く主題旋律(第26—33小節)の先取りと考えられる。第34小節から直前の主題が繰返される。後楽節は変更され、和声は低音の半音進行によりb-Mollへ移行する。この転調を皮切りに大規模な転調領域に入る。すなわち、後楽節で低音がb-Mollの主音に到達したのち(第41小節)、それに続いて新しい2小節単位の楽句が、強弱と音域を交替しつつ繰返されるのだが、その間に調性はEs-Durへ転調する。次いで楽章冒頭主題を思わせる半音階的な下行動機で始まる4小節の旋律が、アルベルティ・バスに支えられて2回現れ(第49—57小節)、それにピアノ協奏曲のような技巧的なパッセージが続く。このパッセージはまさに協奏曲のソリストのようにcalando-a tempoで副主題の旋律(第67小節)へ入っていく。この間、第48小節以降ずっと低音にEs音が保続され、副主題の調性As-Durが準備される。  2. 副主題部  副主題群冒頭の主題は、音階下行動機や装飾音のターンにより、主要主題群と関連する一方で、スラーの付いたレガートな旋律線やアルベルティ・バスによる伴奏、16(8+8)小節という大きな段落構造(第67—82小節)が楽章冒頭主題と対照的である。主題は直後に繰返され、楽節の末尾が変更されて次のセクションに移行する。  副主題群第二の部分は、4小節単位の楽句(第97—104小節)、2小節単位のゼクエンツ(第105—112小節)が明確なカデンツなしに連続するため、主題的な形式的まとまりはあまり感じられない。しかしこの単調な音楽の流れは、第113小節で中断される。下行していた右手が突然、三連符の分散和音で上行に転じたのち、2オクターヴ急降下するというダイナミックな動きを見せ、和声もas-mollの減七和音が4小節にわたって引き伸ばされ、束の間、劇的な局面が挿入される。そして続く5小節において、和声は徐々にAs-Durへ戻り、右手の典型的な終止の身振りと低音の4度上行によって長らく避けられていた明確な音楽の区切りが現れる。第97小節以降は両手の声部を交換して繰返されるのだが、その際、2小節単位のゼクエンツは、先とは別の2小節楽句によるゼクエンツに代わり、また4小節の減七和音の直後には同じ素材による4小節の属七和音が挿入される。終止を導く楽句では旋律声部が右手に戻り、今度は楽句末尾の旋律、和声転回が変更されて、全終止が先送りされる。すなわち旋律の導音は休符によって未解決とされ、低音は4度上行ではなくIV音(des)から7度跳躍し、もういちど直前の小節の繰返しになる。ただし今度は旋律が両手の10度平行で強調され、完全終止が導かれる(第153小節)。第153小節からはコデッタへの移行部であり、第161—168小節は直前の8小節の変奏になっている。  コデッタ(第169小節)では、楽章冒頭2小節の音階動機が計8回、主音Asの保続音の上下の音域に交互に現れる。その後、As-Durの主和音→属和音の進行が、和音と分散和音上行によって音域を上げながら繰返し鳴らされ、最後にffで力強く三回、主和音が示されて呈示部が終わる。  II. 展開部  呈示部、再現部に対し展開部は60小節と短い。初めは休符を挟んだ切れのよい和音進行で、As-Durの主和音、f-Moll、h-Mollの減七和音が連続的に鳴らされていく(第193—207小節)。h-Mollの主和音へ解決すると同時にコデッタの分散和音動機に基づく新たなセクションに入り、h-Moll→g-Moll→c-Mollと転調していく(第207—220小節)。続くセクションは三連符の分散和音による4小節の楽句のゼクエンツ(第221—232小節)。なお、上声部に現れる上行音型は、呈示部第105—107小節の左手にその由来を辿ることができる。ここでc-Mollの主和音は主調f-Mollの属和音に読み替えられ、和声は主調f-Mollの属七および属九、主和音、重属和音と移っていく。続いて第233—240小節では呈示部第113—114小節の三連符の上行分散和音動機が、第241—249小節では楽章冒頭の音階下行動機が繰返されるのだが、和声はこの2つのセクションを一貫してf-Mollのドミナントに留まり、和声、動機両面から長いスパンをかけて直後の再現部の到来を予示する。冒頭主題の音階動機を高音域と低音域に交互に鳴らしていた右手が、第249小節から3オクターヴと6度という広範な音域を駆け上がり、上行の終着音c’’’から直接再現部が始まる(第252小節)。  III. 再現部  再現部では、呈示部の音楽がほぼ型通り再現され、変更も些細である。主な変更点は以下の通り。すなわち移行部(第49—66小節)は、ドミナントの保続音が呈示部と同じく保たれる反面、新しい素材による音楽に書き換えられている。ここで付点リズムによる同音反復の動機が使われており、これは、第1楽章再現部第171—174小節と共通である。ただしエーベルルが常用的に好んだ方法なのか、もしくは意図的に楽章間の関連づけのために付点動機を用いたのかは分からない。  副主題群も、第347—350小節に挿入句が加筆される点、コデッタ直前の三連符によるゼクエンツ(呈示部第161小節~、再現部第415小節~)の旋律線の進行が変更されている点を除けば、ほぼ変更なしに再現される。呈示部では、後者の三連符からコデッタに直結するのだが、再現部では属和音がffで力強く鳴らされ、連綿たる三連符の流れが一度中断されてから、和音の主和音解決と共にコデッタが始まり、再びレガートで音楽が動き出す(第421—423小節)。また、再現部では分散和音による2小節の楽句が2回分延長され(第445-448小節)、両手共にヘ音記号の低音域まで下行し、左手は楽章中の最低音F’音上のオクターヴに達する(F’-F)。この低音の保続音に支えられ、16分音符に加速した右手が分散和音で一気にAs-fの和音からf’’’ 音まで上行、そして休符を挟み、ダイナミックにf音まで3オクターヴ跳躍下行し、左手とのユニゾンで主音が反復され、堂々と楽章が閉じられる。

執筆者: 丸山 瑶子
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