初級の学習者向き作品。ミゴの全ピアノ曲のうち最も平易で「メトードローズ」に相当する位置づけ。1939年7月、レ・ピヴォチエール(ロワール地方フォンデット)にて作曲、マルセル・ピノー(Marcelle Pineau)への献呈。ミゴがピノーの招請でポワチエ音楽院の教授を務めたのと相前後する時期、明らかに教育現場での実用目的に書かれたもの。副題「簡素で美しい二声対位法、フガート、バッソオスティナートによる子供のための9つの小品」(9 pièces à 2 voix en contrepoint simple et fleuri, fugato et basse obstinée à l'usage des enfants)が、そのまま本作の説明になっている。初版の表紙は、画才がありカリグラフィーの心得もあるミゴ自身の手になるもの。表紙と扉の各々に作曲者の意図を述べた短文が添えられ、いわく、「長調・短調の枠組みを超え、親指の動きや小節線によって子供たちの耳と手を訓練し、徐々にリズムや指遣いの流儀を理解させることが必要」(表紙)、「始めは中庸な動きで練習すること。次に子供たちは少しずつ各曲に自分の感性が示すテンポを見つけるだろう」(扉)などとある。
全体に音数はごく少なく、左右の手に一声ずつを単音で担わせてプリミティブな多声音楽を構築する。バッハでいえば「アンナマグダレーナのためのクラヴィーア小品集」くらいのシンプルさ。平易といっても、ミゴと同時代の楽壇を席巻した新古典主義の作曲家による学習者向き作品とは本質が異なる。機能和声によらない簡素な多声音楽が淡々と流れるばかりで、子供の意を迎えるような具象的な題材は出てこない。ただ、作品に繰り返し真摯に向き合うと、そこに副題通り、童心にかえった純真さを確かに聴き取ることができる。レッスンの現場では一聴してわかりやすい曲、親しみやすい曲に流れるのはやむを得ないにしても、ときにはこういう渋みのある曲にじっくり取り組むことが指導者自身の学びともなろう。
第1曲 中庸に Modéré 3/4
第2曲 活発に Allant 2/4
第3曲 活発にきっぱりと Allant décidé 4/4
第4曲 活発に Allant 3/4
第5曲 コラールのように Comme un choral 2/2
第6曲 活発に Allant 4/4
第7曲 アンダンテ Andante 3/4
第8曲 きっぱりと Décidé 3/4
第9曲 活発に、音を十分のばし歌うように Allant, chantant soutenu