本練習曲は、六曲ずつの二巻からなり、第一巻が37年に、第二巻が翌38年に出版された。今回演奏されるこの作品26がタールベルクにとって唯一のエチュード集である。今日ではオペラなどの主題によるパラフレーズ作曲家というイメージが付きまとうタールベルクだが、彼もまた30年代の「エチュード・ブーム」の波に突き動かされて優れたエチュード集を書いた。エチュードの慣例に従って、各曲は限られたリズムモチーフで構成している。いずれのモチーフも指の敏捷さ、大きな跳躍、手の伸張、交差など特定の技術的目標を達成するために書かれており、それを過激なテンポで演奏するよう指示されている。たとえメトロノームの指定速度が遅くとも、一拍が細かい音符に分かれているために指示通りのテンポで弾くことは決して容易ではない。しかし、同時代を生きたパリ音楽院教授マルモンテルが伝えるところによれば、ショパン同様、巧みにペダルを操り音響をコントロールできたタールベルクの演奏には、粗っぽさや力まかせの打鍵からくる音の濁りが一切なく、極めて端正で透き通るような印象を与えたという。
作曲家解説の箇所で既に述べたが、この練習曲にも中音域に旋律を置きそれを分散和音でとりまくというタールベルクに典型的な書法が見られる。参考までに第2巻第4番の冒頭を挙げておこう。

オペラの旋律を多く作曲に用いたタールベルクだけあって、旋律の彫琢には余念がない。