ロシェロールの初期ピアノ作品は全てチョス(Kjos)から出ている(ジョスとも読まれる)。米国の楽譜出版大手チョスはカリフォルニア州サンディエゴを本拠地とし、バスティンメソッドの元締めとして知られる。もともとチョスは吹奏楽やバンド譜を得意としていたが、二代目経営者ニール・チョス(Niel A. Kjos)がコロンビア大学でジェーン・バスティンとクラスメイトであった縁から、チョスはバスティンの版権獲得に成功、ピアノ教本の出版に本格的に進出したのである。米国では、トンプソン、ギロック、バーナムの各教本を擁するウィリス(Willis)が先発最大手であったが、新規参入のチョスが独自色を打ち出しウィリスを刺激することで、両社に良き競合関係が醸成され、ピアノ教育界は活況を呈することとなった。ほどなく各メソッドが日本にも流入・普及したことは周知の通り。
吹奏楽・合唱曲でキャリアをスタートしたロシェロールがピアノ曲に転向して地歩を固める過程が、チョスのピアノ曲部門の成長と軌を一にしている事実も興味深い。ロシェロールの4作目のピアノ曲である本作はクラシカルなタイトルを持った小曲集。このあたりから、ロシェロール作品は一作ごとにテーマ性をより明確に打ち出すようになる。チョスがロシェロールのピアノ曲作家としてのポテンシャルの高さに惚れ込み、委嘱に本腰を入れ始めたことが見て取れる。難度はチェルニー30番程度。古典の堅苦しい様式感にとらわれず自由に書かれている。全体にあっさりした楽想で気軽に弾ける。凝った和声法が出色。
第1曲 ノクターン Nocturne| Slowly, freely, 2/4, G major
第2曲 プレリュード Prelude | Flowing, 3/4, B minor
第3曲 ワルツ Valse | Cheerfully, 3/4, B flat major
第4曲 ジーグ Gigue| Lively, 6/8, F major
第5曲 マズルカ Mazurka | Spirited, 3/8, A minor
第6曲 エチュード Etude | Very fast, 4/4, C major