ホーム > ヒナステラ > バレエ組曲エスタンシア(ピアノソロ版)
ホーム > ヒナステラ > バレエ組曲エスタンシア > バレエ組曲エスタンシア(ピアノソロ版)

ヒナステラ :バレエ組曲エスタンシア(ピアノソロ版) Op.8a

Ginastera, Alberto:Ballet Suit Estancia Op.8a

作品概要

楽曲ID:87011
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:編曲
著作権:保護期間中
原曲・関連曲: ヒナステラバレエ組曲エスタンシア

解説 (1)

解説 : 川端 美都子 (1182文字)

更新日:2024年1月21日
[開く]

元々は、1941年にアメリカ人インプレサリオのリンカーン・カースティンが、アメリカン・バレエ・キャラバンのために委嘱した1幕からなるバレエ作品であった。同バレエ団が解散してしまったため、ヒナステラは原曲から4曲を抜粋し、オーケストラ用へと編曲した。その組曲版は、1943年にコロン劇場で初演されている。本作品のテーマは都会出身の若者とエスタンシア(大農園)の娘との恋愛である。若者は娘に恋をするが、勇敢なガウチョに比べて見劣りする彼に、娘は振り向かない。しかし、最終場面で若者はガウチョたちとのマランボ対決に勝利し、娘の心を射止める、というのが大筋である。元のバレエ作品では、ホセ・エルナンデスによるガウチョ抒情詩『マルティン・フィエロMartín Fierro』(1872)の一部が朗読・歌唱され、地方の風景描写に臨場感が加えられていた。

 

〈農園で働く人々 Los trabajadores agricolas〉

冒頭から見られる複調性と、セスキアルテーラのリズムの荒々しさは、エスタンシアで働くガウチョたちや、彼らが踊るマランボを連想させる。また6/8拍子の5拍目の低音部にアクセントが置かれるところは、マランボの慣例的な演奏実践との類似が見られ、この作品にさらなる趣を加えている。次々とガウチョたちが登場し、農園での仕事の支度をする様子が表現されている。

 

〈小麦の踊り Danza del trigo〉

本曲は、元のバレエ作品では〈農園で働く人々〉の前に位置しており、仕事が始まる前の静かな朝の風景が描かれていた。地方舞踊音楽サンバの優雅なリズムや、前半の旋律の一部(C-A-C)には、《アルゼンチン舞曲集》の〈粋な娘の踊り〉との類似が見られる。爽やかな朝のパンパに広がる小麦畑を背景に、美しい娘が夢見るように踊るかのような、伸びやかな旋律が印象的である。

 

〈大農園の労働者たち Los peones de hacienda〉

エスタンシアでの仕事には、牛馬など家畜の放牧も含まれる。譜面に「ギャロップ」という表示があるように、左手で馬の足音が模倣されていたり、9/8、7/8、5/8、3/4拍子と次々に拍子が変化していったりするのが特徴的である。鼻息の荒い家畜を、馬に乗ったガウチョが勇敢に追っているのであろうか。

 

〈終幕の踊り(マランボ) Danza final (Malambo)〉

最終楽章ではタイトル通り、IV-V-Iの和音進行の繰り返しやセスキアルテーラのリズムなど、マランボの諸要素が用いられている。同じ音型が執拗に繰り返される箇所は、まるで入れ替わり立ち替わりサパテオを披露するガウチョたちに、都会出身の若者が果敢に挑んでいるかのようである。最後にファンファーレが高らかに鳴り、娘の心を射止めた都会出身の若者の喜びと勝利を告げながら華々しく終結する。

執筆者: 川端 美都子
現在視聴できる動画はありません。  

楽譜