出版:Paris, Maurice Schlesinger, 1846
献呈:Son ami Lindsay Sloper
タランテッラの語源はイタリア南部のプッリャ州の町ターラントに求められる。通常6/8 拍子の急速なテンポで書かれるタランテッラは19 世紀にピアノ音楽に導入され南国的イメージと結びついて頻繁に作曲された。パリではD. F. E. オベール(1782 ~1871)のオペラ『ラ・ミュエット・ド・ポルティチ(La Muette de Portici)』(1828 年初演)第3 幕のタランテッラが評判をとり、以後、同時代のピアニスト兼作曲家の殆どがタランテッラを作曲している。ヘラーはこの曲種を好んだ作曲家の一人で、このタイトルをもつ作品番号付きの作品だけでも7 曲が存在する。本作はそのうち最初に出版された情熱的なコンサート・ピース。
本曲は主題の提示法においてソナタ風の調構造を持ち、多様な着想が次々に繰り出される3 部に分けられる。
第1 部(1 ~214 小節):主要主題はA(1 ~17 小節), B(18~49 小節)の2 部分から成る。A ではスタッカートの同音連打を特徴とする主題1a が2 回繰り返される。この主題1a は主題1b(18 ~25 小節)が3 回繰り返された後にもう一度現れ(A’:49 ~61 小節)、短い結句(61 ~64 小節)で閉じられる。65 小節から新しい2 つの大きなセクションC, D が現れ、それぞれ4 つ、3 つの小区分に分けられる(C1 : 65 ~89 小節, C2 : 89 ~96 小節,C3 : 97 ~104 小節, C3’ : 105 ~146 ; D1 : 146 ~164, D2 : 165 ~197, コデッタ : 197 ~214)。C3 のモチーフを引き継ぐ105 小節から調性はト長調に移りC3’が始まる。C3’はd 音のペダル上で次第に高揚するが139 小節で一旦収束し、快活なD1 が導かれる。ドミナントが支配するD2 ではD1 のモチーフ(153 小節)を利用しつつ高揚しクライマックスが築かれる(197 小節)。コデッタで再びホ短調に向かいA, B の再現が準備される。
第2 部(214 ~523 小節):この部分は、既出の素材の利用に基づく一種の展開部であり、複雑ながら、次のように図式化される。 A’’(214 ~229)- B’(229 ~245)- B’’(245 ~289)- E(290 ~325)- F(326 ~405)。まずA・B が変化を加えられて再現した後(A’’・B’)、B’’でホ長調に転じて2 つの新セクション(E, F)が挿入される。ここでは殊に既出動機の利用が顕著である。下表は、現れる動機とその由来を示している(数字は小節番号)。
2/4 拍子に転じるF は第3 部への推移部として機能する。一度ƒƒの華麗なカデンツを形作るが(354 ~366 小節)、直ちに収束して瞑想的なコラールが挟まれる(373 ~385 小節)。
第3 部:曲の終結部。A’’’(406 ~425)- C1’(425 ~441) -推移部(442 ~461) - A’’’’(462 ~483) - コーダ(484 ~523)。まず、410 小節からA が(A’’’)、425 小節からC1 が(C1’)が再現される。A’’’では419 ~421 小節の内声にB’の動機(229~230)の動機の拡大反行形が現れる。
C1’と推移部に続いて、最後の主題提示(A’’’’)が行われる。469 ~471 小節のバスの動機(gis-a-gis-g)は446 ~447 小節の旋律(h-ais-h-cis)の拡大反行になっている。
477 小節からはA’の結句(61 ~64 小節)を用いてA が変奏される。ドッペル・ドミナントの突然の休止(483 小節)に続いてコーダとなり、堂々と曲が閉じられる。献呈を受けたL. スローパー(1826 ~87)は英国のピアニスト兼作曲家。