BALLADE Morceau de Caractère
変ホ短調という調性を用い、暗い情熱をにぎらせるこのバラードは、平明で快活なピアニズムを特徴とするラヴィーナの作品中の異色作といえる。劇的かつ構造的な名作である。
1859年メイソニエール(Meissonnier)社刊。(執筆者不詳)
作曲家についての解説で、ラヴィーナの音楽を「光と生の力強さに満ち溢れている」と形容したが、この中期の大作《バラード》に限っては著しい例外で、半音階が多用され薄暗い雰囲気をまとっている。その意味で、この作品は、アポロン的な気質をもつラヴィーナらしからぬショパン的作品といえるが、彼特有の楽構築性と引き締まったピアニズムはこの曲にはっきりと見て取ることができる。冒頭がオクターヴのユニゾンで始まるのはショパンの一連の《バラード》に従っている。一方、低音を重視し、内声を和音連打によって埋めることで重厚でシンフォニックな音響を作り出す手法は同時期の他の作曲家の作品にもしばしば見られる特徴で、例えば序奏の後に現れる主題の伴奏づけなどは、アルカンが1857年に出版した《全短調による12の練習曲》作品39の第4番〈交響曲〉第1楽章とよく似ている。楽曲は大きく三部分に分けられる。
|| A (es-Ges-es) || B (Es) || 経過部 (E-Es, etc.) || A’ (es) || Coda ||
中間部Bでは冒頭の低音主題が高音域で同主長調によって提示されるが、この調性の劇的な対比は、それまでの暗闇から光がさすような印象を与える。調性、音量、書法の対比によって生み出されるこの種のドラマチックな語り口は、ラヴィーナならではの美点である。