学習者向きのオリジナルの2台ピアノ作品である。コンチェルトといってもオーケストラとの協奏作品ではない。レベルはチェルニー30番程度。チャイコフスキーのピアノコンチェルトの冒頭のメロディの引用で開始して意表に出るが、以降はアメリカ民謡・俗謡を題材にコンチェルトの様式を実地に学ばせることを意図している由、トンプソン自身が解説している。教育目的がうたわれている割に堅苦しさがなく、気軽に楽しめる。奇をてらったところもなく、オーソドックスでスピーディーな曲運びの中に、洗練された現代性を感じさせる。一応は第1ピアノをソリストに見立てて短いカデンツァを弾かせたりもするが、全体としては両パートにバランス良く華を持たせ、いっぱしのピアニストになった気分を味わわせてくれるのも良い。電話の保留音やコマーシャルソングなど、私たちの日常生活にまで浸透したポピュラーなメロディが少しも陳腐にならず、おしゃれに仕立てられている。発表会でも人気のレパートリーとなろう。
第1楽章 Down South 南部に。4分の4拍子、開始部アンダンテ・モデラート、主部アレグロ・モルト、ハ長調。「ディキシー」Dixie(アメリカ大衆歌謡)、「アーカンソー・トラベラー」Arkansas Traveler(アーカンソー州の旧州歌)を扱う。
第2楽章 Out West 西部へ。4分の3拍子、アンダンテ・モデラート、ト長調。「峠の我が家」Home on the Range(アメリカ民謡)、「さらば、ぶち毛の馬よ」Good-bye, Old Paint(カウボーイ・ソング)を扱う。
第3楽章 Back East 東部で。8分の6拍子、モルト・アレグロ、ハ長調。「リパブリック讃歌」Battle Hymn on the Republic(アメリカ愛国歌)、「イエール・ブーラ・ソング」Yale Boola Song(イエール大学フットボール応援歌)を扱う。