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ミュルデル : 村の夕暮れ

Mulder, J : Soir au village

作品概要

楽曲ID:71812
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:種々の作品

解説 (2)

解説 : 今関 汐里 (181 文字)

更新日:2021年3月1日
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4分の3拍子、ハ短調。1〜12小節目で奏でられる端切れの良く淡白な旋律と伴奏が、都会の喧騒から逃れた田舎の村の情景を描いているかのようである。この主題は、次の13小節で再び、ヴァリアントが加えられてより抒情的かつドラマティックに展開される。41小節目で再び主題が原型で現れたのち、より一層緊張が高められるが、最後は最も音量の小さいpppで消え入るように終曲する。

執筆者: 今関 汐里

演奏のヒント : 大井 和郎 (2333 文字)

更新日:2021年8月17日
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この曲で大切なことは、曲の性格としてはそこまで深刻な描写ではなく、「楽観的な幻想」と言う言い方もできる事で、故に、そつなく弾くことが重要であり、深刻に切実に弾くことではありません。結果、重たさを感じさせる弾き方ではなく、2拍子を感じ、軽やかに進んでいくのが理想です。故にテンポがあまりにも遅いと、重たさが出てしまいます。テンポはある程度心地よいテンポ=右手の16分音符が重たく感じさせないテンポが良いでしょう。

この曲をヴァイオリンに例えてみましょう。そうすると最初の4小節のメロディーラインの部分では、細やかなアーティキュレーションが必要とされますが、次の2小節(5-6小節間)では、たっぷりとサステインして、7-8小節間と裏拍から始まるボーイング、そして再び9-12小節間たっぷりとサステインして歌う部分が出てきますね。これらの「細やかなボーイング」と「サステインしてたっぷり歌う」部分は区別を付け、コンスタントなテンポの中での歌心がほしいところです。

歌の部分が極めて目立つのは、16-24小節間であり、温かみを出すためには、各小節の最初の左手の音、つまりはバスの役目を果たしている音を指で伸ばすか(フィンガーペダル)、実際にペダルを用いてバスを伸ばすと良いです。勿論、18-19小節間のように、右手に音階が来る場合、ペダルを踏みっぱなしでは濁りますので、この辺はフィンガーペダルのみを使うなり、右手を濁らせないように注意しましょう。

25-32小節間、8つのシークエンスと考えますが、4つ4つ、2つに分けて考えます(25-28小節間と29-32小節間)。この2つのグループは、2つめの方を音量を大きくしますが、25,26,27,28と、ppからクレシェンドをかけ28小節目に達します。一度28小節目に達したら今度は再びpに落としてから32小節目に向かってクレシェンドをかけていきます。

この部分でももう一つの注意点は、右手5度あるいは6度のラインの上の方の音を出すようにして、下の方の音は音量をぐっと控えてください。

そして最初のクライマックスである33小節目に達します。ここはある種の「喜び」や「安心感」を描写しています。そのような気持ちで弾きます。この部分もまた、トップノート(一番上の音)をはっきり際立たせてください。

41-56小節間はカデンツの部分と考えていただいてもかまいません。なぜならば、左手伴奏系の8分音符がなくなり、2分音符がタイでつながれたりしていますね。つまりは、この部分の左手を、例えば弦楽器のアンサンブルと考えたとき、チェロとビオラ等が音をサステイン(伸ばす)していて、メロディーラインはその間、自由に動くことができると考えます(多少即興的になっても良いという意味です)。メロディーラインで、47小節目は驚きの部分です。このような部分は今まで出てきませんでしたから、多少サプライズ的に強調してもかまいません。また、この47小節目は、前の46小節目から、結構な距離を経て降りてこなければなりませんね。テクニック的に危ない部分です。ここは無理にリズム通りに正確に行かなくても、若干の時間を取ることで、ミスタッチの可能性が減りますし、少し時間を取ることで、サプライズを強調できます。

また、この41-56小節間において細心の注意を払わなければならないのは左手の動きにあります。先ほどもお伝えしたとおり、これで弦楽器であるのならば、弦の人たちはピッチを変えるときに指をずらすだけで、ある音から次の音に実にスムーズに移行します。ところがピアノの場合、音を変える度に新たな音を弾くことになり、変えた瞬間にアタックが生じます。ここは決して各2分音符にアクセントを付けず、さながら弦楽のアンサンブルのように、スムーズに、横に流れるように進みます。まずこれが1つ。

もう1つは、和声進行のお話です。例えば41小節目の左手は、Es F As で、このEsが非和声音と考えますと、このEsは、次の小節でDに降りて来て、「解決した」 と考えます。

故に、Dには絶対にアクセントを付けないこと。EsからスムーズにDに降りてくようにDの音量を最大限絞ります。 44小節目。1拍目の左手Esも次の拍でDに降りて解決となりますので、これもアクセントを付けません。Esより小さく弾くようにします。同じく、46小節目のD、48小節目2拍目のH、50小節目のH等はアクセントを付けません。

53-56は伴奏さえなくなります。リズムを崩さない程度に右手を自由に即興的に弾いてもかまいません。

69-76小節間、再びカデンツの部分と考えます。41-56小節間と同様、和声進行や、サプライズ等に十分配慮してください。

さて、筆者は冒頭でこの曲を「楽観的な幻想」と表現しましたが、77-84小節間のみ、この曲が初めてドラマティックになる部分と考えます。今まででは最も音量を必要とするセクションになります。遠慮せずにフォルテを出してかまいません。

そして再び、ソロセクションが85-91小節間に来ます。ここも基本的には自由なのですが、カウントを忘れてはいけません。よく発生する事例としましては、89-91小節間のテンポが遅くなってしまう事にあります。長い音符のセクションがきても、リズものカウントは続けてください。

最後、pppのセクションである、92-93小節間、コントラバスなどの弦楽器のピッチカートと考えます。pppですが、左手の5の指はきちんとバスの音を鳴らしていることを確認してください。そしてここは、何か熱いものに手を触れて手をさっと離すような動作でスタッカートを極力短く弾くと上手くいきます。

執筆者: 大井 和郎
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