(楽曲分析的解説)
テンポ指示で「おどけて」と書かれてある通り、諧謔的ニュアンスを想定されている楽曲。
主調はハ長調。1小節目からF♯の非和声音があり、最後の終止和音Ⅰの付加6和音であるため、調性が不明瞭に感じられるが、それでも明るい雰囲気が感じられるのは、そうした箇所以外はハ長調として構成されているからだろう。
1小節目からのF♯は、様々な考え方がある。ハ長調でF♯と言えばドッペルドミナントの構成音(導音)とも考えられる。
主題モティーフはワルツを想起させるリズム的性格を帯びている。それはワルツのように2小節が1つのかたまりで構成されており、メヌエットのような1小節単位の動き方とは異なる。
全体の構成としては二部形式。
A[a(1から4小節)+b(5から8小節)]
B[b1(9から12小節)+a1(13から16小節)]
コーダ(17から20小節)
A楽節ではaとbの異なる小楽節が提示される。bはaのようにワルツのようなリズム的モティーフではなく、レガートで旋律的性格の強いモティーフではあるものの、スタッカートにより弾むような舞曲のイメージが感じられる。こうしたaとbを通して舞曲的なイメージが得られることも標題の「ダンス」に繋がることなのだろう。
また、b楽節においては左手の低音部譜表でも経過音(或いは経過和音)、刺繍音のような非和声音が使われていることから旋律的要素が持っており、この楽節が2声のポリフォニーとなっていることが分かる。したがってb、b1楽節においては、左手は伴奏ではなく一つの声部としてニュアンスをつけて表現することが求められるだろう。
全体の音域としては、左手低音部譜表としては高音域にあることから、ピアノという楽器の特性を考えると、決して重々しくなく、寧ろ全体を通して軽やかでアーティキュレーションは繊細な表現が求められる。
構成の流れでは、B楽節の冒頭はb小楽節の展開からa小楽節の展開という流れで、これはA楽節における提示と順序が逆で興味深い。a1楽節が終わりにやってくることで統一感をもたらし、作品の構築性を引き締めている。
15から16小節では2度上行しているが、このような変化も元々のaモティーフと比べて音程が上がることでどのように響きが変化するのか、そこだけを弾き比べてみると表現へのヒントに繋がるだろう。
最後の終止和音は、前述した通りⅠの付加6和音であるが、構成音第5音が最低音となる第二転回であり、その上最高音は第3音となるので和声的には不安定である。
いわば不完全終止となるわけであるが、どうしてあえてこのような不安定な響きに作曲者は書いたのか、響きを聞きながら想像を膨らませてみることも良いかもしれない。