柴田 南雄 :ピアノのためのインプロヴィゼーション 第2 No.31
Shibata, Minao: Improvisation II No. 31
総説 : 仲辻 真帆 (708文字)
《ピアノのためのインプロヴィゼーション第2》の楽譜を開くと、そこにはA1、A2、A3、A4、B1、B2、B3、B4と記載された旋律断片がある。A系列、B系列、それぞれ4個ずつの断片から成っており、この構成順序は演奏者に任されている。作曲者から出された指示は、それぞれAとBを任意の順序で各1回演奏すること、Aは中間部で1回演奏を省略し、その箇所はB系列を2回続けること、最初と最後はA系列に設定することである。 AとBの組み合わせについて、一例を挙げると以下のようになる。 A1→B1→A2→B3→A3→B2→B4→A4 楽譜には、4分音符や全音符などがそれぞれ少しずつ異なる間隔で記されている。各音符はおおよその「時価」の比例を表し、音符の間隔はおおよその「速度」の比例を表す。 A系列は嬰ト音の連打からはじまり、B系列は概して点描的である。定期的に差し挟まれるAが全体に形式的な統一感をもたらす。一方、演奏者には音型を組み合わせる自由が認められている。換言すれば、この曲には確定性と不確定性が併存していることになる。 《ピアノのためのインプロヴィゼーション第2》は、1968年、第2回日独現代音楽祭のために書かれた。柴田の創作理念が鮮明に映し出された作品の一つである。 作曲者は生前、次のように述べていた。この作品における音は「ある種の方法で厳密に配置されて」おり、「その配置の方法が解けた者には何でも望みのものを進呈する」と。今となっては《ピアノのためのインプロヴィゼーション第2》に関して柴田に問うことはできないが、本作品を演奏する際には柴田から提示された課題解明に挑んでみるのも良いかもしれない。
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