1953年に母を失い、さらに友人の死をうけて、モンポウはこれまで以上に内面的な音楽を作曲するようになった。《ひそやかな音楽》も、その時期に作曲された作品である。スペイン語の“Musica Callada”は、《沈黙の音楽》と訳されることもある。1巻に付された文章の中で、詩人サン・ファン・デ・ラ・クルスの詩の“La Musica Callada, la Soledad Sonora(鳴り響く孤独、沈黙する音楽)”から引用された言葉であることが記されている。
この曲集は、1959年~1967年にわたって作曲された。第1巻~第4巻にわたり、それぞれ9曲、7曲、5曲、7曲ずつ、いずれも2ページ以内の小曲がおさめられている。実際に、演奏会向けにかかれた曲集ではなく、独り言のように書かれているものが多い。第4巻のみ、ラローチャに献呈された。
XXII.4分の2拍子、モルト・レント・エ・トランクィロ。悲しげに下降する左手の上を、右手で同音が静かにうちならされる。終始小雨がしとしととふりつづいているような浮かない雰囲気が曲を支配している。
XXIII.4分の2拍子、カルム・アベック・クラルテ。冒頭では上下を繰り返す音の中で変わっていく音、変化していない音をそれぞれ意識して奏する。ポコ・ピウ・モッソではこれまで停滞気味だった
音楽に流れが加わっている。表情豊かに。
XXIV.4分の2拍子、モデラート。伴奏では終始一貫して8分音符に刻まれているこの曲だが、旋律において、フレーズの長さを細かく変化させながら音楽が展開している点に注意したい。3巻からこれまで重苦しい雰囲気が延々と続いていたが、この曲できかれる和声的解決の部分は非常に暖かい光につつまれている。
XXV.4分の2拍子。音一つ一つの響きを生かしながら色をつけていくような曲である。ペダリングの指示も細かく指示されているが、指遣いにおいても、少し前の音の余韻を残すようなタッチで音を響かせていくとよいだろう。
XXVI.4分の2拍子、レント。循環するような音形で歌われる内的な一曲。この曲においても遠近法的な手法が効果的に用いられている。旋律とは外れた場所で鳴りつづけている長い音符を常に同じ位置で聞き続けられるように注意したい。
XXVII.レント・モルト。4分の2拍子と4分の3拍子を行き来するが、小節線は部分的にしかかかれていない。もやがかったような雰囲気の中で、非常に繊細な音の揺れを表現しなければならず、多くの集中力を必要とする。
XXVIII.4分の4拍子、レント。他の小品と比較して、調性がはっきりしており、ききやすい。シンプルでピュアな音楽をもって最大限の表現を追及するモンポウの姿勢を改めて感じさせる。曲集すべてのしめくくりにふさわしく、荘厳なたたずまいをもった一曲である。