民族的な要素が見られる曲です。タンブランはタンバリンの意味や打楽器の意味もありますが、この作曲家がそれをどれほど意識したかは定かではありません。しかしながら譜面には多くの細かい指示があるものの、テンポ関連に関しては1箇所もなく、恐らくメトロノームに近い、正確でコンスタントなテンポで進み、ルバートをかけたり、タイミングを引き延ばしたりするような事はしません。
強弱マーキングは、大体8小節毎に変えられていますが、例えば1-8小節間がフォルテであったとしても、その中での強弱もまた存在させるべきであり、8小節間が全て同じ平坦なフォルテにならないように気をつけましょう。
この曲が8小節単位で強弱が変えられていますので、8小節間を1つのセクションとして分析をしていきます。
例えば冒頭8小節ですが、左手の伴奏系を見ると、1小節目から4小節目まで順番に 1 G 2 Fis 3 E 4 D という音があると考えます。実際には1小節目はEしか書かれていませんが、この小節を分析すればE G Hという和音から構成されている事がわかりますので、その中のGが1小節目に入っていると仮定します(これは1拍目右手の16分音符にGがあり、これとぶつかる事を避けて、左手にはGが書かれていないと考えることもできますね)。
その要領で、G Fis E D と4小節目まで伴奏系が徐々に下行しているとするのであれば、5-8小節間は、1-4小節間の続きで、C H A G と考えれば、伴奏系はオクターブの音階を辿って下行している事がわかりますね。これも8小節目にはGが書いてありませんが、これは Empty 5th(空っぽの5度)と呼ばれるカデンツの1種で、3和音の第3音を抜かすことで独自の雰囲気を作り出す書法です。勿論8小節目も分析をすれば、E G Hという和音から構成されています。
さて、1-8小節間の伴奏が、G Fis E D C H A G と下行していて、メロディーラインのほうはどうかと言いますと、1-4小節間で最も高い音がト音記号のEで、これは1小節目の2拍目裏拍に書かれてあります。そして8小節目にはオクターブ下のEが書かれてフレーズが終わっていますので、右手のメロディーラインも、左手のような順次進行はしていないものの、1-4小節間と5-8小節間を比較すれば、5-8小節間の方がピッチが下であり、テンションが落ち着いてくることを意味します。
故に、1-8小節間は、8小節目に近づくほど強弱が弱まりますので、1-4小節間をディミニュエンド、5-8小節間もディミニュエンドとします。ところが、8小節間ずっとディミニュエンドというのも演奏がしづらいので、4小節目まで下げてきたら、5小節目で一度少し音量を戻し、8小節目までディミニュエンドをかけていけば良いです。
9-16小節間は、1-8小節間のヴァリエーションであり、マーキングはp、leggirero、staccatoと書いてあります。さながら木管の小編成のグループが小さな音で演奏しているようなイメージです。もしかしたら伴奏系は、弦楽器のピチカートかもしれません。いずれにせよ、9-16小節間はそこまで強弱の差はなくても構いません。1-8小節間のエコーのような部分と考えます。
次の8小節は、17-24小節間ですが、フォルテのマーキングがあり、17-20小節間に対し、シークエンス的に21-24小節間はピッチが上がり、テンションも上がっていきます。そしてこの曲のクライマックスである、25-31小節間に達します。17-20小節間よりも、21-24小節間のほうが音量を大きくしますので、それを計算し、17-20小節間が最初から極端に大きくなり過ぎないよ うにします。
さてここで、少し話を戻します。16小節目の最後の音である左手のDの話です。筆者は17小節目が subito Fとは思いません。前の小節のDを利用して、16小節目の左手は、E H D とクレシェンドして17小節目に入るようにします。一方16小節目の右手はクレシェンドせずにディミニュエンドで終わります。16小節目の左手Dは新たなセクションに導く音と考えます。16小節目には左手の音はたった3つしかありませんが、この3つの音で最大限にクレシェンドをかけて17小節目に入ります。
17小節目からメロディーは左手に移りますので、左手をメロディー、右手を伴奏と考えます。17-20小節間と21-24小節間の決定的な違いは、各セクションの最後である、20小節目と、24小節目の左手の動きにあります。20小節目、左手の音はAまで上がっていき、そこから下行して、次のセクションの最初の音であるEにたどり着きますが、24小節目の場合、音は下がること がなく、Hを保ったままになっていますね。20小節目のシークエンスであれば、24小節目の音も 20小節目のように下行して、H C H Aとなるべきですが、意に反して、Hからは下がりませんね。テンションが高くなることを意味しています。勿論ディミヌエンドなどかけずに、フォルテのまま、25小節目に入ります。
25小節目、右手の内声Gが弾きにくいのであれば、このGは左手で取っても構いません。そして恐らく、30小節目がこのセクションで最もテンションの高まるところですので、ここに方向性を向けます。
32-39小節間、再び最初のセクションが戻ってきますが、今までと決定的に違うのは39小節目の和音です。これはとても驚きの部分であり、ショッキングな部分でありますので、いきなりこの和音に飛び込むのではなく、躊躇して、大げさに演出すると良いです。