このプレリュードは、同じ素材の繰り返しが多い曲です。繰り返すということは、作曲家の頭の中にはアンサンブルがあって、そこで楽器が多くなるとか減るとか、他の楽器になるとか、なにかしらの変化があったと想像されますが、このようなピアノ譜(伴盤譜)には特にそのような事が書かれておりませんので、それなりの工夫をしていかなければなりません。
最もやって欲しくない演奏は、これら同じ素材の繰り返しをまさに同じように繰り返すだけの演奏になってしまう演奏です。どんな些細なことでも良いので、なにかしらの変化を付けること、これがこのプレリュードを演奏するヒントになります。
このプレリュードの主題は1小節目、アーフタクトから、2小節目3拍目までの右手とお考え下さい。左手は右手を追いかけ、カノンのような動きになりますが、この左手は、この説明文では主題の数には数えないことにします。そうすると、主題が出てくるところは5箇所あることになります。
1 1~2小節間
2 3~4小節間
3 11~12小節間
4 13~14小節間
5 21~22小節間
の5箇所です。
まず冒頭から1~2小節間の主題が出た後、すぐに3~4小節間に主題が来るのですが、これがほぼ同じ。唯一異なっているところは4小節目の左手が、2小節目の左手に比べて、オクターブ高く書かれてあることですので、なにかしらの変化を付けます。典型的な例としては、1~2小節間はフォルテで、3~4小節間はピアノで、といった変化です。
11小節目の主題はE-durの主題です。これをA-durと比べたときに、どちらがテンションが高いでしょうか?この3つ目と4つ目の主題はオクターブ低く4つ目が始まりますね。これらも変化を付けましょう。学習者のみなさんは担当の先生と相談して強弱等を決めてみましょう。
5つ目の主題は繰り返すことはありません。これは元の調に戻ったという感触を得られる主題ですので、フォルテでも良いと思います。
1~4小節間、2つの主題が終わると5小節目から16分音符が始まります。そしてこの16分音符は途切れること無く8小節目まで進みます。そしてこの前半で最もテンションが高くなる場所は、9小節目1拍目、右手のEです。ですからここに向かって5小節目から徐々にテンションを上げていきます。この「方向性」が大事です。
6小節目1~2拍間と3~4拍間は同じですね。また、7小節目の1~2拍間と3~4拍間も同じです。ですからここにも変化が欲しいです。例えばの話ですが。6小節目の1~2拍間をフォルテ、3~4拍間をピアノで弾き、7小節目の1~2拍間をメゾピアノ、3~4拍間をメゾフォルテというような流れでも良いと思います。明らかなるクレシェンドが欲しいのは8小節目ですので、流れ的には、今説明した強弱は都合が良いです。
9~10小節間、ピークポイントに達した後のこの2小節間をどう弾くかは、奏者(先生)に委ねられます。筆者の楽譜にはpのマーキングが書いてあります。勿論これでも良いと思います。
11~12小節間の主題に対して、13~14小節間の主題はオクターブ下ですが、異なった楽器と考えても良いです。
11~14小節間の主題が終わると、今度は今まで出てこなかった素材が出てきます。1つ目の素材はcis-mollで、カデンツが17小節目の3拍目のcisで終わる、完全終止です。そこから2つのシークエンスを経て、20小節目3拍目で新たなカデンツになります。この3拍目のカデンツ、半終止ですが、オリジナルの主題の最後と同じ音型です(Cis-H)。
23小節目から、前半と同じように16分音符が始まります。8小節目、1~2拍間の素材と同じ素材が使われていて、これがシークエンス下行形になっていますね。左手の4分音符はドライに切った方が筆者は良いと思います。下行形なのでディミヌエンドをかけて、24小節目3拍目から26小節目1拍目のカデンツに向かってクレシェンドをかけていきます。
ただしこのプレリュード、最後の小節である30小節目に層が厚く書かれており、後半のピークポイントとしてはもしかしたら30小節目かもしれません。そうであれば、25小節目はそこまで大きくする必要も無いかもしれません。ピークポイントは前半と後半では1箇所ずつで良いと思います。ご参考まで。