ダマーズは1950年代までは作品番号を付けていた。本作は Op. 42 とされている。20世紀フランスを代表するクラヴサン奏者として知られるロベール・ヴェイロン=ラクロワ(Robert Veyron-Lacroix)への献呈。出版譜の表紙は Passacaille pour clavecin となっているが、大譜表の冒頭に CLAVECIN ou PIANO と記されていることから、作曲者がピアノでの演奏も想定していたことが明らかである。ダマーズのクラヴサン曲としては本作のほかに「花飾り」(Guirlande/1971年のパリ音楽院のコンクール課題曲)があり、本作同様ヴェイロン=ラクロワへ献呈されているが、こちらは純然たるクラヴサン独奏曲となっている。
モデラート(4分音符=72)、4分の4拍子、ハ短調。パッサカリアの定石通り、下降する低音(C – B♭ – A♭ – G)が一貫して繰り返される。荘重な開始から、次第に音価を細分化させて多様に変容していく。B♭はA♯に、A♭はG♯に各々適宜読み替えられながら入念な転調が重ねられ、一連の流れが頂点に達した瞬間、ハ短調からハ長調へと鮮やかに転調し、晴朗なメロディが高らかに歌われる。その後、一時的にハ短調の暗い情熱へと引き戻されるが、再びハ長調に回帰し堂々たる凱歌を響かせてハ長調の主和音で終止する。譜面はあくまでもクラヴサン曲としてのものであり、強弱記号やアーティキュレーションは一切付されていない。ピアノでは演奏者が各自の判断で、強弱、フレージング、ペダリングを加えてピアニスティックな表現を追求してよいものと思われる。