まず最初に、筆者の見ている楽譜には、冒頭に Andante tranquillo と書いてありました。バッハより古い作曲家の作品に、果たしてこのような表示が書いてあったのかどうか、かなり疑わしいです。この演奏のヒントは、一応この、Andante tranquilloを前提として話を進めていきます。
ドメニコスカルラッティのソナタのように、2部形式になっています。このアリアは4小節単位でフレーズが進みます。大変規則正しく進むのですが、小節数の合計は38小節です。4小節単位で進むのですから、4の倍数であるべきなのですが、38は4でぴったりと割れませんね。順を追って説明していきます。
1ー4小節間、1つ目のフレーズです。
5ー8小節間、上行系のシークエンスが始まります。
9ー12小節間、下行形のシークエンスが始まります。
13ー16小節間、ドミナントの和音で、終止形です。これをハーフケーデンス(half cadence)と言います。
さて、よく注視して下さい。
17ー20小節間、F-durに調がかわりましたが、1ー4小節間とほとんど同じですね。
21ー24小節間、シークエンスです。これも5ー8小節間と同じ素材を使っています。ただし今回は下行しています。
さて、そうなると、25ー28小節間が、13ー16小節間と一致して然るべきなのですが、何か違いますね。15小節目の左手の音形は、29小節目に現れますね。ちょっとここは置いておき、後から戻ります。
31小節目からd-mollに戻りますので、ここから4小節間(31ー34小節間)、(35ー38小節間)とわけると綺麗に分けることが出来ることがおわかり頂けると思います。そうなるとおかしなのは、25ー30小節間で、つまりは「2小節余計」なのです。この曲が36小節しか無かったら、4x9=36で4小節単位の辻褄があいます。ところが実際は38小節なので、2小節余計と考えます。
29ー30小節間は15ー16小節間と一致しますし、25ー26小節間は、13ー14小節間と一致しますので、そうなると、27ー28小節間だけが異分子となります。見てみるとカデンツっぽいですね。
初めて出てきたカデンツなのですが、これが35小節目にも使われていますね。
仮に、27ー30小節間が、35ー38小節間と一致しますので、そうなると25ー26小節間が異分子と考えたくもなるのですが、25ー26小節間はそれはそれで13ー14小節間と一致します。
この状況を如何様に考えて頂いても構いませんが、自分の考えで、セクション毎に分けて考えると音楽的構築が楽になります。ご参考まで。
これら4小節単位で進むフレーズを前提に、ダイナミックを考えてみましょう。これはほんの一例に過ぎません。ご参考まで。
1ー4小節間、1ー2小節間をクレシェンド、デミニュエンドただしpの範囲内で。3-4小節間ははこの4小節間で最も大きくなるところかも知れませんが16小節目までを考えたとき、先にもっとピークを迎える場所が出てきますので、1ー4小節間はそれほど大きくしません。
5ー8小節間、上行するシークエンスにクレシェンドをかけていきます。7小節目をピークにして、8小節目は若干7小節目より少なめにします。クレシェンドをかけて行く際に注意があります。まず5小節目の右手8分音符の最初の3つの音、F E D は、4小節目からの続きで、Dが最後の音と考えます。故に、最初の3つは必ずディミヌエンドをかけます。次のフレーズは、残りのD C Dですが、これは6小節目のB A Gとつながって終わると考えます。そうすると、当然、B A Gはディミニュエンドに処理します。以降、「この秩序を守りながら」クレシェンドをかけていきます。
9ー12小節間、同じ秩序を守りつつ、下行形のシークエンスにディミニュエンドをかけていきます。
13ー16小節間、13ー14に1ー2のような若干のクレシェンド、ディミニュエンドをかけ、15ー16小節間はpに戻します。
以降、17ー21小節間は、1ー4と同じシェーピングで。基本的な(17ー21全体の)ダイナミックは自由です。
以降、シークエンスを使い、ダイナミックを上げ、または下げていきます。
以降、カデンツを含め、基本的にダイナミックは自由につけて構いません。