チェルニーの初期の練習曲集。既に教師としての名声を確立していた30代後半の作と見られる。チェルニーの教育者としての国際的名声拡大を告げる作品で、パリで最初に出版されたチェルニーの練習曲集でもある。
48曲は長調とその平行短調が交代する形で配列され、24番までで全調を一巡する。後半24曲は前半よりも長い曲が多い。最後はホ短調で終わるが、これはハ長調とイ短調が他の調よりも多く重複することを避けるためであろう。
練習曲集とはいえ、タイトルには「前奏曲とカデンツの形式による」という特殊な表現が見られる。前奏曲は、古くからリュートやギターなどの弦楽器のチューニングの具合を確かめたり、同時に指慣らしをしたりするためのごく短い曲で、オルガンやチェンバロの為の曲を通して次第にひとつの作曲様式として定着してきたジャンル。ショパンの《前奏曲集》作品28は極めて丹念に書かれた作品だが、曲の短さという点では前奏曲というジャンルの名残を留めている。チェルニーのこの曲集の特に前半には8小節にしか満たない曲も含まれる。一方、カデンツァは声楽アリアや協奏曲などでドミナント和音のフェルマータ上で即興される華麗な装飾的楽句で、最後は華やかなトリルで締めくくられることが多い。本曲集の第28番~第31番は鍵盤楽器向けのカデンツァの様式で書かれている。
テンポはアレグロとプレストが多く、これが敏捷さを伴う練習の実践的な側面を特徴づけている。一方で第5, 7, 12, 44番のように歌唱的な旋律表現にも重きを置く曲も少数ではあるが含まれる。第38番は転調するコラール風の和声を演奏する練習であり、必ずしも敏捷さのみに特化しない点がこの曲集の特徴である。
下の一覧速度表示はパリ初版に基づく。
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