この曲が作曲された当時、34歳のサティは音楽界に自身の評価をまだ確立していなかった。それ故、芸術音楽の作曲のみで生計を立てることが困難で、カフェのピアニストやミュージック・ホール、キャバレーのための歌や付随音楽の作曲家を続けていた。約15年間(1890-1905)のカフェ、キャバレー音楽家生活をサティ自身は「大変な堕落」と考えていたが、その間に作曲されたカフェ・コンセール音楽(1860年代頃からフランスで流行した喫茶店のために作曲された音楽)の多くは大変優れた作品と言える。
その代表的な作品が『ジュ・トゥ・ヴー』である。現代でもCMなどで使われるあまりにも有名なワルツ。『あなたが欲しい』、『おまえが欲しい』、『あなたが大好き』などと様々に邦訳されている。もともとは詞(H.パコリー作詞と伝えられている)に作曲した歌とピアノのためのシャンソンで、歌詞には女性版と男性版があるのが特徴。歌曲(シャンソン)は単純な単純3部形式、ピアノ独奏版は歌曲の形式に中間部(トリオ)が加わり複合3部形式。この頃のサティの作品の中では数少ない小節線が引かれている作品で、奇を衒うことのない自然な流れが心地よい。