アキ ピアノ教本2より出典。この教本は、ソルフェージュ能力とピアノ教育を密接に結びつけたものとして知られる。
このため、手のポジションが優先され、左手開始音はⅠ和音の第3音であり和音としては第一転回形となっているが、これは表現上そうなったのではないと考える。こうした左右の音程の配置は、8度・同度・5度などの完全共和音程ではないことを考え、並行進行による2声部による構成と捉えることができる。そのため、左右のバランスをとるために、左手にも音色のニュアンスを意識する必要がある。
全体の構成は一部形式。1から4小節までと5から8小節までで二つの小楽節と考え、冒頭2小節の同じモティーフを共有している。主題は4小節間で、二つのモティーフによって構成されている。1から2小節は順次進行による滑らかな進行が特徴的で、続く3から4小節では属7和音・根音省略・第三転回形からⅠ第一転回形へ進行するD→T進行というふうに変化しており、1から2小節比べるとより和声感が明確となっている。
表現の可能性としては、これらの変化を鑑み、1から2小節はシンプルに上行と下行を滑らかにクレシェンドとディクレシェンドで表し、続く3から4小節では左手f音(※属7第7音=和声的には下行限定進行音であるので緊張感を伴う)からe音へ向かう意識、右手4小節目では上行する分散和音線はフレーズを開くように表現することも考えられるだろう。
8小節目の終止は最後に左手に主音があるため、完全終止として安定感のある終止となる。
このように、一見すると単純な楽曲ではあるが、構成・構造ともに細々とした変化を捉えることで、より表情豊かな演奏が望めるだろう。