楽曲構造は単一主題による一部形式である。
序奏(1から3小節)
A[a(4から12小節)+b主題展開(13から19小節)]
A1[a1/変奏1(20から31小節)+a2/変奏2(32から36小節)]
コーダ(37から47小節)
楽曲冒頭の序奏では、誰もが一度は耳にしたことがある学校のチャイム音モティーフが単音で提示される。主調はa mollではあるものの、このチャイム音モティーフ自体はC durであり、このため恐らくこの調性に沿ってp(ピアノ)ではなく幾分明るくmf(メゾフォルテ)と書かれたのかもしれない。このe→c→d→gのモティーフは3小節目で部分活用される。下行形d→gが上行gis→hとなる。すると、このモティーフは上下行の二部構成であることを予兆させる。
3小節目のgisは主調a mollにおける導音。前小節のC dur属音gから半音上がるわけだが、この時点では転入和音のみで転調が確立しているわけではないので、あくまでも何か異変があったというだけ、ミステリアスに疑問符だけが置かれた状態である。これはベートーヴェンのピアノソナタ作品31−2ニ短調「テンペスト」1楽章の冒頭でドミナントから開始される技法に似ている。属和音自体は長三和音なので常に明るい響きがするので、この和音を開始時にクローズアップ(フェルマータなどで)すると調性感が曖昧となる。それを後続する主和音によって明確に和声解決することによってコントラストが生まれ、ドラマチックな展開となるのだ。
主題提示は4から12小節。伴奏の四分音符二つは恐らく夜の教室に足を踏み入れた時の高鳴る心臓の鼓動音だろう。これを、完全5度音程での構成を多用することで緊張感を表している。メロディライン5から6小節は半音階下行進行だがモティーフを逆行させて部分活用したものだ。6小節目のesは和声的にはdisとするべきところだが、あえてesとしているには理由があって、5から8小節においてのe→es→d→cの下行順次進行を意識したものである。従って、この音は和声的にはドッペルドミナントの導音ではあるが、限定進行通りに解決はされない。つまりは機能和声よりも横の流れが表現として優先されるべきだろう。
13小節から平行調C durに部分転調して一瞬明るくなるのだが、17小節から主調に戻り19小節で半終止を迎える。なお18小節でも半音階上行なのにes音表記となっているが、ここは導音が機能している点においても半音階上行はシャープかナチュラルで記譜する慣習からしてもesの記譜は謎である。17小節から19小節の属和音へ向かってクレシェンドが示す通り、ここはたとえesと書かれてあったとしても導音の和声機能として緊張の高まりを表現するべきだろう。
20小節からは主題の再提示となるが、最初の提示とは上下逆となっている。これはバッハのインヴェンションでもよく見られる手法である。旋律の音域が変化することで音色の大きな変化も見込まれる。25から28小節はまるで主題を遮るようにして唐突に学校チャイム音のモティーフが配置される。これはまず25から26小節で主和音Ⅰの構成音が半音下がった状態で提示される。この4小節は一つの和音しか存在しないため、新しい調の確立は示せない。実際何が起こっているかというと、24から29小節の間で、e→es→eというふうに刺繍音のような形で半音下がって、また半音上がるという進行になっている。つまり4小節全体が刺繍音のようなイメージで、性質としては移行楽節のようなものである。
32小節から主題が上声に移って、再現される。冒頭最初の提示に比べると1オクターヴ上での再現となる。ここは実質終結部としての主題変奏である。33小節上声がaとeの完全5度音程の重音となっているが、この変化は恐らくアウフタクトの上行形でクレシェンドで駆け上がって上下ともに完全5度音程でより力強い響きを表現しているのだろう。
コーダは37小節から4小節にわたる長い上行する半音階を経て、41小節から学校チャイムモティーフの展開が行われる。43小節からはC durのドッペルドミナントであり、45小節でフェルマータが見られるがここで和声カデンツが完結したわけではないので、フェルマータ後、複縦線が見られて分断されるわけだが、意識的な繋がりは持って演奏する方が良いだろう。
全体を通して、楽譜に書かれた様々な要素が標題を情景描写していると考えられる。ぜひ楽譜のこうした様々な箇所も注意深く見ていただき、それが何を指し示すかを想像してみるともっと楽しめるだろう。