三部構成である。
提示部(1から12小節)
嬉遊部(12から17小節)
追迫部(17から25小節)
・主題の特徴
冒頭1から4小節で、主唱として初めに提示される。主音から始まり、下行する音階で属音に到達した後2度上行して固有音第6音へ(a音)、その後3度上行して再び主音に到達して、導音に降りてまた主音へと解決される。
冒頭音階的に主音から属音まで4度下行する際に、主音から固有音第7音(h音)を経過するが、この時h音は導音にも関わらず(※導音は和声的には限定進行音として必ず2度上行して主音へ向かう)、主音へ上行せずにそのままa音へ下行していく。こうした旋律的動きがあるため、まるで教会旋法のような響きを感じる。
主題全体として順次進行が多く、このため横への繋がりが強く感じられる旋律となっている。なお、楽譜には主題を指し示す長いスラーが記されているが、これは楽譜下部脚注にある通り、主題を示しているだけなので、アーティキュレーションに関しては別に考える必要がある。バロック期の様式で考えるならば、小節線を跨がない短いスラーなどが考えられる。主題の性格と全体の構成を考えながら、いくつかの可能性を試していくことも良いだろう。
・全体の構成について
本作品は短いながらも2声のフーガとして基本的な構成が成立している。提示部ではまず下声部で主調にて主題が提示され(主唱)、後に上声部属調で主題が模倣される。(答唱)9小節から改めて上声部で主題が主調で再提示される。
固定された対主題や対旋律はないが、5小節目の下声部モティーフは嬉遊部冒頭、上声部にて活用されている。
嬉遊部はd mollのⅥ和音から始まり、14小節からa音から始まる主題が提示される。この主題展開においては、後半部(16から17小節)でa mollに転調しているが、前半部(14から15小節)ではd mollで、属7からⅠ主和音で和声解決される展開となっている。この主題展開全体としては主題を定着(確保)するために提示されたのではなく、和声構造からするとあくまでも移行的な意味合いを持っている。
個々の調性に拘った表現となると返って停滞した表現に構造上なりやすいので、ここは全体として短調における主題提示として提示部における長調での主題提示とは対照的なイメージを持ちたい。
17小節、下声部より主題が始まり、続いて18小節上声部より主題が模倣される。一つの主題提示が終わらないうちに矢継ぎ早に別の声部で主題が模倣される。これがストレッタである。
フーガにおいては、大規模なフーガは曲中2声間で小競り合いのように行われる小ストレッタと終わりで全ての声部で壮大に繰り広げられる大ストレッタがある。本作品では2声部の小規模なフーガのため、壮大であるとは言い難いが大ストレッタに相当する箇所が17小節から始まる楽節である。主調ハ長調の明るい調子の中で、ストレッタがあることで活発で勢いのある雰囲気が感じられる。
終結24から25小節は、2声だから分かりにくいが、ここはⅣ→Ⅱ7→Ⅴ→Ⅰと一拍ごとに和音が変化しているので、こうした和声変化を感じながらpoco rit.を表現すると良いだろう。