《12の性格的な小品》は1838年に第1,4,5,7,8,12番が《6つの性格的な小品 Six morceaux caract éristiques》としてすでに出版されていた。出版当時、パリではおそらく作品8、ドイツでは作品16として出版された。シューマンはこの6曲に対して好意的な批評を残している。その後まもなく残りの6曲が加わり、《12ヶ月集》として出版された。74という作品番号はのちに誤って付された番号である。タイトルからもわかるように、各曲は一年の各月に対応しており、いずれも季節感溢れる描写的な小品である。
※第1集
□第1曲 ト短調 冬の夜/Une nuit d'hiver
屋外の凍るような寒さが低音のスタッカートから引き出される一方、後半は屋内の暖炉の暖かさが長調の穏やかな旋律によって歌われる。
□第2曲 ホ短調 カーニヴァル/Carnaval
カーニヴァルの情景。前打音を伴うオクターヴと歯切れの良いスタッカートで快活にギャロップを描写する。
□第3曲 ニ長調 帰営/La retraite
兵士たちが帰営のラッパを聞いて集まり、行進する。
※第2集
□第4曲 イ長調 過ぎ越し祝い/La Paque
過ぎ越し祝いとは先祖の出エジプトを記念する祝祭。ユダヤの血を引くアルカンの生活が窺われる。アルカンは厳格なユダヤ教徒でもあった。
□第5曲 嬰ヘ短調 セレナード/Serenade
五月は恋の季節。揺れ動く若者の心やため息を全音音階、半音階を効果的に用いて生き生きと描き出している。
□第6曲 イ長調 舟遊び/Promenade sur l'eau
穏やかな水面に揺れる舟。終始同じリズムを歌い、ゆったりとした時間が流れる。そんな昼下がりに、後半は少々感傷的な気分に浸ってみせる。
※第3集
□第7曲 イ長調 夏の夜/Une nuit d'ete
涼しい夏の夜。窓辺にすわって夜風に吹かれているような穏やかさが曲全体に漂う。日中の暑さをわすれ、心地よい一時をそのまま切り取ったような一曲。
□第8曲 変ホ長調 刈入の人々/Les moissonneurs
劇的な序奏に続いて牧歌的なワルツが歌われる。時に情熱的な中間部に続き再び穏やかな空気が戻ってくる。
□第9曲 ニ長調 アラリ/Hallali
アラリは狩の掛け声を指す語。馬の駆ける足音、追われる獲物、ホルンの響きが見事に表現されている。
※第4集
□第10曲 へ長調 時化/Gros temps
10月、天気は崩れおどろおどろしい黒くもが立ち込める。左手のトレモロに入り、次第に高揚し、両手のトレモロで嵐は激しさを増す。最後は一筋の風が吹き抜けるような分散和音に終わる。
□第11曲 ハ短調 死に行くもの/Le mourant
次第に寒さが増し、貧しいものは次第に弱っていき路上で息絶えて行く。繰り返される低音の下降音型に、時折コラールが挿入される。死に行くという現実とそこに垣間見られる宗教的な報いの対比は感動的である。コラール風の挿入は以後のアルカンの作品にしばしばみられるが、祈りの表現であろうか。 最後の高音域の和音は直接次の第12曲に繋がるものであろう。
□第12曲 変ニ長調 オペラ/L’opera
貧しいものが息絶える一方で裕福な市民は冬の娯楽、オペラに足を運ぶ。当時活躍していたマイアベーアらのグラント・オペラを皮肉っぽく、仰々しく風刺した一曲。