<17.アンダンティーノ・トランクィロ>
このプレリュードは音楽的解釈がヒントになります。音楽の多くはまず現実的な側面を描写し、中間部で幻想的な夢の世界に入り、そしてまた現実に引き戻されますが、このプレリュードは、その逆パターンで、中間部が現実的で、Aセクションは夢の世界の描写になります。形式はABAですが、Aセクションは最初も最後も右手と左手がほぼ同じ動きをします。つまり同じ音を弾きます。左右の手はそれぞれにメロディーラインと内声があります。上に棒が向いている音符ががメロディーラインで、下に棒が向いている音符が内声です。
奏者は、内声とメロディーラインの音質の区別をはっきりとつけ、メロディーラインがはっきりと聴こえるようにバランスをとります。内声はどちらかというとぼんやりとした音質でppで演奏してください。ルバート等、多少のテンポを揺らす事は自由であると思いますが、このメロディー、鐘の音の描写のようにも聴く事ができますね。その場合、あまりテンポは揺らさず、ストレートに弾いた方が良いでしょう。
中間部は実に悲壮な歌が登場します。書かれてあるcantandoの通り、自由に歌います。19-20小節間に、歌の部分とは異なる伴奏系が入ってきます。3つの8分音符Gisとその音形のゴールの和音です(4回目を除いては2度で終わります)。同じ事が22、24、26小節目にそれぞれ(異名同音でも)入ってきます。奏者はそれらの素材を歌の部分とは異なった音質で弾く事が望ましいのですが、歌の部分か、伴奏系の素材か、どちらを強調すべきかは奏者に委ねます。
Bセクション最後の小節である32小節目は、ゆっくりと弾き、3拍目裏拍から登場する細かい音形があたかもゆっくりのグリスアンドのように聴かせます。そして再び夢の世界に入ります。