<12.アダージョ>
このプレリュードは、魑魅魍魎の潜む森を彷徨うような、恐怖に満ちた曲です。チェロや、コントラバスのような低音の旋律から始まり(1小節目や4小節目)、不気味な歌声が何度も聞こえます(3小節目、11小節目、32小節目)。奏者はそれらの異なった素材を認識し、弦のソロ、歌、オーケストラ、などを考えて、各素材の音質を振り分けてください。
◉ 主題である1小節目のメロディーは、必ず次の小節の1拍目がゴールになります。この場合、2小節目のGisまで導きますので、crescendo をかけてGisにたどり着いてください。つまりGisを一番大きく弾きます。
◉ 4小節目、2拍目から始まるメロディーも5小節目の3拍目のCisがゴールです。下行していると音量を下げたくなりますが、下げずにcrescendoしてください。
◉ 9-10小節目 今までに目にしたことない光景が広がるように、テンションを高めてください。10小節目の2、3拍目は両方ともsFですが、3拍目のsFは2拍目のsFよりも弱くして、11小節目に入る方が自然に入れます。
◉ 12小節目 知らない場所を歩くようなイメージを持って良いと思います。途中で立ち止まるイメージは16-17小節目です。この4/4のセクションは決してテンポを引き延ばしたり、止まったり、ルバートをかけたりせず、in tempoで時計のように正確に進んでください。拍や休符の位置を聴き手に分からせるためです。
◉ 26小節目や6小節目に出てくるこれら2度進行のフレーズは、不安や、危険を暗示します。30小節目を頂点にして、31小節目にその不安が消えるように演奏してください。30小節目は不安が頂点に達するところです。2拍目の和音にたどり着く時は、自分自身も恐怖を感じながら演奏してください。
◉ 一瞬の安堵を得られるのが32小節目の歌の部分です。33小節目に再びcrescendoがかかっていますね。再び起こるであろう嫌な予感を表現します。34小節目、突然閃光が走ります。35小節目、バスのオクターブが単音になり、ディミヌエンドでppまで達して静かに終わります。
◉ 短い曲ですが、絶大なるドラマが中にあります。和音を敏感に感じ、ドラマを最大限表現してください。そのためにはダイナミックレベルも幅を広く持ちます。