<9.アレグレット・スケルツァンド>
カバレフスキーの音楽の特徴の1つとして「道化の描写」があります。サーカスなどに出てくる道化師の事です。このプレリュードはさながら道化師が演技しているように、ユーモアたっぷりに演奏したいところです。それには幾つかの提案があります。
表示記号はallegro scherzando で2拍子です。遅すぎないように軽いテンポで演奏してください。ただし、後半piu mossoとaccelerandoが出てきますのでそれを逆算し、極端に速くもならないようにします。
軽い感じを出すためにアーティキュレーションも重要になってきます。レガートやスタッカートの違いをはっきりと出します。左手はほとんどの場合、スタッカートが書かれていますので、短いスタッカートで演奏します。
このプレリュードは、一見ストレートに弾かなければならないようにも見えますが、テンポは状況に応じて引き伸ばしたり速めたりして自由に演奏して良いと思います。つまり道化師の演技にテンポの差があるように、ルバートをかけても構わないと思います。
33小節目、調が変わります。ムードも少し変えると良いでしょう。あるいはもう一人の道化師の登場でしょうか。36小節目からpoco piu mossoになり、ここから最後まで、右手に16分音符がぎっしりと並びます。演技が徐々に激しさを増して、スピードも出てくるような描写です。この辺りから、カバレフスキーは左手の8分音符にスタッカートを書いていません。ゆえに、ここから先の8分音符のスタッカートを取ってしまう奏者もいましたが、筆者はこれは暗黙の了解だと捉えています。左手の8分音符は常にスタッカートの方が重くなりません。
さて、このプレリュードの技術的問題は、その左手の8分音符のスタッカートにあります。冒頭10小節目までご覧いただいてもわかる通り、左手の跳躍はかなり広く、実にミスタッチを起こしやすい音形になっています。筆者は、最初はスタッカートを取り、テヌートでフォルテで練習することをお勧めします。それが出来てからスタッカートにすると、音質も、たとえppであろうとも芯のある音が出せますし、ミスも減ります。