8.アンダンテ・ノン・トロッポ-センプリーチェ・エ・アンタービレ
技術的にはそれほど難しくないプレリュードですが、大変奥が深く、様々な演奏方法があると思います。このプレリュードには左手の伴奏の他に、2つの素材があるとお考えください。1つ目は、2小節目4拍目から登場する主題です。これは6小節目の1拍目において全音符で終わります。2つ目は主題というよりはレゾネンス的な副主題で、これが6小節目の2拍目から登場します。1つ目の素材をA、2つ目の素材をBとします。Bは9小節目まで続き、10小節目から再びAが登場します。
一つの演奏方法として、この2つのAとBを完全に別素材として扱い、それぞれの音質を与えてやります。Aは太い音で、Bは囁くように柔らかく弱い音で、といった具合です。Bは16小節目辺りから、次第にcrescendoをして、18小節目において2声になります。そして20小節目において、強い感情表現となり、この曲のクライマックスを迎えます。25小節目においては再びAセクションに戻り、素材AとBが一緒になり曲が終わります。
それではその他、この曲の注意点を箇条書きにしてみます。
◉ とにかくcantandoですのでたっぷり、ゆっくり歌うようにします。
◉ 最初は3小節目の1拍目右手のFisを頂点にして、そこから徐々に下がっていき、6小節目でオクターブ下のFisにたどり着きます。単純に、Fis E D Cis H A Gis Fis という音階を辿っていると考えて構いません。
◉ cantandoで歌うことを考えた時、4小節目1拍目のCis、5小節目3拍目のCis、6小節目1拍目のFisなどにアクセントがつかないようにします。
◉ コンスタントに進むバスは、5小節目と27小節目のそれぞれ3拍目のみに変化を見せます。 この2つの音である His と Cis ですが、Hisのほうが非和声音になりますので、Cisがレゾルーション(解決音)になります。音楽的にはとても不気味に弾いてください。
◉ 9小節目最後にコンママーキングがあります。これはここで少し時間を取るという意味です。ゆっくり消えてから10小節目に入ってください。
◉ 20小節目はやはり、重々しく、弾きづらそうに弾いてください。激しい感情の表れです、あっさりと弾かないように。
◉ 22小節目、何が何だかわからなくなりがちな部分です。右手のtopの音をはっきりと出してください。
◉ 同じく22小節目、diminuendo e più tranquillo と書かれていますが、これはミスプリントに間違いありません。本来これは23小節目にかかれていて然るべきです。
◉ 25小節目の素材Aと素材Bが混ざるところは部分練習が必要になります。Aははっきりと、Bは囁くように弱く弾いてください。それを右手で同時に行います。
◉ 28-29小節目はこの曲の終わりになりますが。28小節目から最後までペダルを踏みっぱなしにします。最後にB(シb)とA(ラ)が混ざり、濁りが生じますが、そこがまた一つのミステリーな部分と考えますので、このペダリングで問題はありません。