作品概要
解説 (2)
演奏のヒント : 大井 和郎
(1755 文字)
更新日:2018年6月20日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (1755 文字)
形式はABAですが、Aセクションが更に、ABABAと分かれています。
Aセクションは以下に分析されます。
A 1-8 9-16 B 17-24 A 25-32 B 33-40 A 40-48
最初のAセクション1-16について考えていきましょう。このセクションは、1-8と9-16に分 かれますが、大きな差はありません。従って1-8を例に取ります。この1-8小節間は3つのフレー ズに分割できます。即ち、1-2、3-4、5-8、の3つになります。ここで皆さんと一緒に考えてい きたいことはフレーズのゴールです。たとえば1-2小節間を見たとき、メロディーラインは大雑把 に見ると、F Es Des C の4つの音に分けることができ、これらは下行形になっていますね。ダ イナミック的にどの音が大きくなるのでしょうか?高さから言えばFですし、筆者の持っている シャーマー版には、小さくですがディミヌエンドマーキングが書かれています。ですから、Fに もっとも音量を与え、あとは順次衰退するシェーピングの方法です。これは十分ありだと思います。
もう1つの可能性としてはその全く逆のパターンで、右に行くに従って音量を上げていき、最後の Cに達するシェーピングです。このシェーピングの有効な部分としては、バスの音が導音のEナチュ ラルに達したところが最もテンションの高まるところと感じることができ、筆者個人はこちらの シェーピングを優先したいところでありますが、それは自由です。
仮にシェーピングを、「下行する音階を辿って徐々にクレシェンドをする」と仮定します。2小節 目には最低音のCが1拍目、2拍目、3拍目にあります。どのCが最も大きくなるべきでしょうか? 筆者は個人的には2番目、つまり2拍目のCだと感じていて、3拍目のCは、その前のDesよりも弱 いと感じていますが、それは奏者の判断に任せます。
音楽的に考えたとき、2小節目の1-2拍目は自由に歌う感じが欲しく、ここは即興的に処理されて 良いのではないかと思います。つまりはメトロノームのように弾かないことが、この小節を表現 する手段です。同様に、4小節目も同じなのですが、4小節目は装飾音が付いていますので、なお さら時間を取ります。
いずれにせよ、2小節目3拍目の2分音符Cは、文章で言えば読点、4小節目も同じです。そして8 小節目のFが文章で言う句点になります。このFは本来であれば和音の解決音でもありますし、フ レーズの最後の音ですので、通常は消えていきますが、そのまえにF-mollという調の話をしなけれ ばなりません。
バッハ以降、f-mollという調はとても特殊な調で、インベンションやシンフォニア、平均律を見て も悲しみに満ちあふれています。ハイドンのf-moll fantasyや、またベートーヴェンの熱情もfmollですね。そしてショパンのバラード4番もそうです。そしてショパンのop 10-9もf-mollです。 このop 10-9 、フレーズの終わりに行くに従って、クレシェンドの指示があります。それを考え たとき、8小節目の最初のメロディー音である、2分音符のFは、このフレーズ内では最も大きな音 量の音の可能性もあります。特に、その前に6小節目に置いてナポリの6が来ていますので、とて もテンションの高まるところです。7-8小節間のメロディーを、As G F と下げていっても構いま せんし、逆にあげていっても構わないと思います。ご参考まで。
さて、Aの中のBセクションである、17小節目からは、筆者の気持ち的に少し前向きに動き始める 部分でもあるような気がします。テンポも本当に若干ですが、前向きに速くなっても良いのでは ないかと思います。17-18よりも、19-20のテンションを高め、20小節目がこれまでで最もテン ションの高まる部分であると判断されますので、音量も上がってしかるべきと思います。
ここから先はその繰り返しですが、同じような演奏にならないように、変化をつけてみて下さい。
48小節目からは、Bセクションが始まります。72小節目までがBセクションになりますが、agitato 的で落ち着かない様子を演出するようにして下さい。
解説 : 上田 泰史
(1483 文字)
更新日:2010年1月1日
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解説 : 上田 泰史 (1483 文字)
Deux Nocturnes Op.55
この二曲のノクターンは1843年に作曲され、初版はパリ(M. Schlesinger, 1844)、ライプツィヒ(Breitkopf und Hartel, 1844)、ロンドン(Wessel, 1859)で出版された。献呈を受けたJ. W. スターリング(1804-1859)はショパン弟子で、師を熱烈に信奉し、また恋愛感情を抱いていた。スコットランドの裕福な家系に生まれた彼女は、パリでショパンに出会ってから亡くなるまでの間、ショパンを様々な面で助けた。彼女の過剰な親切心はしばしばショパンを悩ませたが、善良なこの女性に対し礼節を保ってふるまった。彼女が集めたショパンの遺品やショパンについての記録文書、ショパン研究において重要な資料となっている。本作は二人が出会ったころの作とみられている。
これらのノクターンには、同時代のオペラ・アリアにおける歌唱様式ばかりでなく、バロック様式、とくに対位法的書法への関心が色濃く表れている。ショパンが対位法を厳格に自作に適用することは、習作として書いた二声のフーガを除けば殆どなかったが、この二曲には対位法への憧れが露呈されている。それでも、彼はポーランド時代から対位法をよく勉強しており、パリ時代も1841年にパリ音楽院院長で対位法の権威ケルビーニによる教則本『対位法とフーガの技法』を手に再び勉強している。
no.1 ヘ短調
前作のノクターン作品48-1に引き続き、この曲でも左手の伴奏はバスと中声部を補填する諸声部を、右手は歌唱的な旋律をになう。形式は他のノクターン同様三部形式(ABA’)で書かれているが、同じ形式のなかで常に何か前と異なることをするのがショパンである。このノクターンの特徴は、一見しただけでは気づかないが、バロック的書法の影響を色濃く反映している点にある。
Aは48小節からなるが、左手のバスに着目すると、この間使用される音はわずかに5つ、すなわちc-e(fes)-f-g-asに過ぎない。そして、e-f-g-asというバスの音型が8回も繰り返される。これは、一定のバスの上で変奏をするシャコンヌやパッサカリアというバロック時代のジャンルを想起させる。
第48小節に始まるBは、劇的な低音のユニゾンに続いて歌唱的な旋律が現れる(第57小節)。この旋律は、作品48-2(第14番)と同じ伴奏音型によっているが、ここでは右手のポリフォニックな扱いに注意を払うべきである。そこでは、中声部に対旋律が置かれ、繋留音が最上声部に対して六度ないし三度をなして解決するという、すぐれて対位法的な扱いが見られる(第58、62小節)。ここにもやはりバロックのスタイルが顔をのぞかせているのである。
74小節目に始まるA’の主題旋律は、冒頭4小節が変奏されてただ一度現れるだけで、その直後には全体の約1/4を占める長大なストレットが続く(第87小節~第97小節)。作品9(第1~9番)のような初期ノクターンにおいて、曲尾にはきまって技巧的・装飾的なカデンツアが置かれたが、後期作品に向かうにつれ、曲の終わり方は和声的および曲のドラマチックな展開という点からみて、いっそう入念に仕上げられるようになっている。この曲のストレッタはとくにその長さ、主題の静けさとはかけ離れたスタイルという点で、21曲中特異な終わり方の身振りを示すものである。このストレッタで調性はヘ短調からヘ長調へと移り、そのまま終止する。同主調による終止は前作のノクターン作品48-2(第14番)と同じである。(上田 泰史)
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