万葉集にある柿本人麻呂の「天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に漕ぎ隠る見ゆ」 から曲名を付けた、単一楽章のピアノ協奏曲です。細密なスコアの執筆中もスケールの大きなこの和歌を思うと日本人であることの誇りを感じ、豊かな発想力が私自身にも乗り移ってくれるようでした。また、東北地方のある地域で黒曜石が空から星屑のように降ってくるという話を聞いてイメージがぐっと広がりました。更に書き進むうちに演奏者の若いかたたちのエネルギーも感じ、どんどんと音楽が進みたい方向へ繋がって行ったような気が致します。  星々が生まれ出る神妙で静かな部分、流れ星が星のあいまを横切るようなピアノとの掛け合い部分、星たちはそのうち互いに踊り出し歌い出し、最後はどっかんとどこかに落ちてしまいます。全曲を通じ、構築性のあるクラシカルな協奏曲の形をふまえながらも、日本的なフラット(平面)な感覚も備えた構成にすることを考えました。  アマチュアオーケストラである、医科学生コンチェルトオーケストラの皆さんが半年間を費やしてこの新作に挑んで下さり、指揮の直井大輔さん、ソリスト實川風さんも練習に付き合って下さいました。クリエイティブで積極的な皆さんと初演を迎えられたことは作曲家として何ものにも代えがたく、素晴らしい経験となりました。