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テレマン :ファンタジア ト短調

Telemann, Georg Philipp:Fantaisia g-moll

作品概要

楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:★ 種々の作品 ★

解説 (1)

演奏のヒント : 久元 祐子 (2359文字)

更新日:2017年5月11日
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■バロック音楽の美学  ヨーロッパの音楽史の中で、1600年頃から1750年頃までをバロック時代と呼んでいます。オペラなどの声楽作品や器楽曲が生まれ、王侯貴族によって宮廷を中心に華やかな文化が栄えました。「バロック」という言葉は、もともと「ゆがんだ真珠」という意味を持つ「バロッコ」というポルトガル語から由来しています。装飾が多く、複雑な形式を持ち、和声が途切れることなく連綿と続き、一つのアフェクト(情感)が曲の中で保たれていきます。  このような音楽を演奏するとき、形式という枠を超えて個人的な感情を体現するロマン派の音楽と異なり、一定のテンポを保持し、拍子やリズムや音型を明確に表すことが大切です。 ■作曲者について  ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681年~1767年)は、後期バロックを代表するドイツの作曲家の一人です。ポリフォニックな構成感と優美な旋律が織りなす独自のスタイルで、多くの作品を残しました。歌劇、協奏曲、器楽曲、教会音楽など様々なジャンルを手掛け、イタリア様式、フランス様式、ドイツ様式など多彩な作風を示しました。 ■バロック時代の鍵盤楽器  管に空気を送って音を出すパイプオルガンのほか、様々な鍵盤楽器が使われていました。  ◎クラヴィコードは、鍵盤楽器の中で最も古くからある小型の楽器です。タンジェント(金属片)によって弦を突き上げて発音します。デリケートな音量の変化やニュアンスをつけることが可能で、ヴィブラートをかけることができる唯一の鍵盤楽器です。  ◎チェンバロ(伊)、クラヴサン(仏)、ハープシコード(英)と呼ばれる鍵盤楽器は、プレクトルム(鳥の羽軸で出来た爪)で弦をはじいて音を出します。はじく弦の数などによって異なる強弱にすることが可能です。  ◎現在のピアノの原型となるフォルテピアノは、1700年頃イタリア、フィレンツェの楽器製作家バルトロメオ・クリストーフォリによって開発されました。ハンマーで弦を打って音を出すため、自在に強弱をつけることが可能となりました。  チェンバロのために書かれた作品を演奏するときには、音の明快さに注意しましょう。雑音を呼ぶような乱暴なタッチ、逆に曖昧な打鍵にならないよう留意し、透明感のあるクリアな音色を心がけたいものです。 ■ファンタジア ト短調  4分の3拍子。自由な即興性を持ち、生き生きとした旋律が次々に現れ、途切れることなく曲が進んでいきます。休止符によって音楽が分断されるのは、48小節です。この減七の和音に行きつくまでは、ずっと音楽が流れ続けていることに注意しましょう。  ■自由な形式と流麗な様式  全体は、A(1~8小節)とB(9~20小節)が提示され、間奏(21~26小節)を挟み、再びA(26~33小節)とB(33~48小節)が展開し、最後にコーダ(49~54小節)で締めくくられます。  AとBを構成している要素を見ますと互いに大きな関連が見られます。堂々とI度で始まり属音を同音反復することにより、g mollをはっきりと印象づけた後、右手は4度上行、左手は4度下降で引っ張り合うような動きを見せます。この3拍目のエネルギーで次の小節に向かって強く回転していくことが大切です。3度重音で和声が変わりますから、はっきりと色を変えて進まなければなりませんが、3拍子の3拍目が重くなると音楽の推進性が失われます。はっきりとした音で、生き生きとしたリズム感を持ちながら進んでいきましょう。このモチーフは3回のゼクエンツとして登場します。それぞれの開始音がd、b、gとなりgmollのI度の構成音にあたります。ここでもはっきりとg mollの色合いを出す結果となります。4小節と5小節は、同じ旋律の繰り返しなので5小節目をエコーのようにpにして表情をつけることにより、音楽にメリハリがつきます。6小節の小終止は、主音と属音からなる4度音程のかけあいとなりますが、4度のモチーフを多用することにより、統一感が生まれています。ノン・レガートではっきりと4度跳躍を表すようにしましょう。7小節のカデンツによってAのセクションが終わります。しかし左手は休むことなくすぐ次のBセクションに入り、右の旋律はアウフタクトでBに入ります。  このBでもA冒頭同様、4度音程で右が上行し左が下降しますが、バスの休止符の上に右手が流麗な動きを見せ、軽やかな流れを作ります。10小節、12小節にバスの5度上行が見られ、音楽に弾みを与えています。左手が休止符になると支えを失ってテンポが不安定になりがちですが、手を緊張させてぎこちない動きにならないよう、しなやかな動きを保ちながらテンポも保持するようにしましょう。  20小節からの間奏は、これまで出てきた要素からできています。4度進行、5度進行、それらのモチーフがくっきりと明確に見えるよう、音が濁ったり混じったりしないようクリアなタッチを心がけましょう。26小節からは展開の要素を含んだ再現と言って良いでしょう。d mollでAが現れ、12小節のモチーフは36~38小節に拡大されています。  全体を通じて、共通のリズムモチーフが度々現れ曲の統一感をよりいっそう高めています。48小節の4分休符でそれまでの流れが止まり、音のない緊張感が生まれます。最後はA後半(4小節以降)を再現し、曲を終結させます。  この作品を弾くときには、テンポを保ち、タッチやペダルを繊細にコントロールすることが大切です。けれど、窮屈にちじこまるのではなく、堂々とした響き、流麗な動き、軽やかなリズムモチーフ、変化に富んだハーモニーなど、曲の持つ魅力を大らかに楽しみながら弾くことが、最も大切なことだと思います。

執筆者: 久元 祐子
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