ヴェルフル :ピアノ・ソナタ 第2番 ニ長調 Op.6-2
Wölfl, Joseph:Sonate für Klavier Nr.2 D-Dur Op.6-2
楽曲分析 : 丸山 瑶子 (4303文字)
No.2 第1楽章 Allegro 3/4拍子 ニ長調 ソナタ形式。冒頭主題(8〔4+4〕小節)を成す各半楽節は、どちらも前半2小節はターン音型、後半2小節は順次進行(2小節)で出来ている。各動機は前楽節と後楽節とで旋律の向きが逆になり(下行→上行⇔上行→下行)、両半楽節は互いに呼応する構造となっている。次の楽節は主題のオクターヴ上での反復で始まるが、後楽節の和声は半音進行によって主調ニ長調から一時的に離れ、それによって全終止がいっそう強調されている。主和音の確立と同時に急速な移行部に入る。移行部の終りには主題楽節末尾の順次下行音形が使われており、ヴェルフルが楽章内部の関連付けを意識したかと推察される。 副主題群(第34小節~)は冒頭主題とは逆に、高音域から始まる。副主題冒頭の8小節の旋律は、三度跳躍動機(2小節)と、跳躍ののち音階下行(2小節)という対照的な動機から成る。次の楽節は右手が三連符の分散和音を繰り返すfの前楽節と、ピアノの旋律的な後楽節から成り、2小節単位で構成された先の8小節とは、動機、形式ともに対照的である。続いて今しがた呈示された2つの楽節が変奏される。第1の楽節には、左手が三度跳躍動機を変奏する上に楽章冒頭主題のターン音型が装飾的に加えられ、次の2小節は技巧的な走句に変えられている。第2の楽節からは前半4小節のみが用いられ、ここでは分散和音が16分音符に細分される。次の6小節は第34-35小節の変奏に基づくゼクエンツ。続いて3小節のドミナント上のパッセージと属七和音上のトリルというヴィルトゥオーゾ的な身振りを通し、呈示部を閉じるイ長調が確立される。呈示部の残りの部分は楽章冒頭主題を用いながら、イ長調のカデンツとドミナント―トニック進行が繰り返される小結尾である。 展開部(第83小節~)は呈示部全体に少し手を加えたといっても良いほど、呈示部の各主題および素材が、呈示部そのままの順に現れる。初めの4小節は、第1-2小節と第7-8小節の変形を組み合わせたような構造で、それに新しい素材による後楽節4小節が続く。この8小節は直後に、両手の声部を交替して、変奏を伴って繰返される。楽節がイ長調トニックに終止すると、呈示部と同じく移行部が――16分音符の分散和音が延長されている点を除いて――ほぼそのまま再現する(転調はイ短調→〔ハ長調→〕ロ短調→〔嬰へ短調→〕ト長調ともとれるが、むしろ低音のAからFisの順次上行で嬰へ短調へ到達し、そこからロ短調、そしてcis、aisを半音ずらしてト長調へという解釈の方が自然に見える)。続いて副主題群がト長調で現れる。ここで三連符の分散和音による楽節の途中から転調に入り、主調ニ長調の長三度上の嬰へ長調のドミナントに到達、嬰ハ音上で主題のターン音形が繰返される。この間、内声は半音階進行を続け、和声はニ長調の属和音に至り、それによって保続音嬰ハ音が主調の導音に転換し、導音進行でトニックが回帰、再現部になる。 再現部は、副主題主調再現に合わせた移行部の短縮を除いて、概ね呈示部に忠実である。但し、楽章冒頭では4分音符だったモチーフが8分音符に短縮される、主題後楽節は第5-8小節ではなく移行部に直結する第13—16小節の再現に置き換えられるなど、細かい部分に呈示部からの変更がみられる。 本楽章は呈示部だけでなく、展開部以降も、再現部の呈示部の最終小節に対応する部分まで反復記号により繰返される。その後、小結尾最終小節の和音モチーフを用いてコーダが主調トニックの長三度上、Fis上の減七和音で始まる。Fisを軸とした和声進行は呈示部にも見られたものであり、それがコーダでも再現する点から、ヴェルフルが主要音として意図的に楽章内にちりばめたものと見られる。和声はカデンツの和音動機によりフェルマータ付の主調ニ長調のドッペルドミナントまで進み、ドミナントを介して主調主和音に戻る。続いてピアニッシモで副主題動機が両手に模倣的に現れたのち、打って変わってffで移行部の急速な16分音符が現れ、力強く楽章が閉じられる。冒頭主題のターン音形がコーダに一度も出てこないのは、展開部などで十分に活用されていたためだろう。 第2楽章 Andante 2/4拍子 ト長調 変奏曲形式。主題は16(8〔aa’〕+8 〔ba’〕)小節の楽段から成り、前後8小節はそれぞれ反復される。後半8小節の前楽節はロ短調に終止し、和声的な彩りが添えられている。第1変奏では初めに旋律声部が32分音符の分散和音で変奏され、主題旋律第2小節から旋律声部が初出の形に戻ると、今度は伴奏声部に32分音符の音型が移る。前半後楽節では、主題右手の和音進行が転回され、そのうち低音声部が右手で示され、高音声部が左手の分散和音に組み込まれる。後半8小節も引き続き、主題旋律の一部が32分音符の伴奏を伴いそのままの形で、一部は32分音符に組み込まれる形で装飾変奏される。 第2変奏は音程の跳躍を含む三連符と付点リズムによる変奏で、第1変奏に比べて躍動感が増している。旋律声部が部分的にむきだしに現れ、部分的に三連符の一部となっているのは第2変奏と同じである。 第3変奏は右手が16分音符のオクターヴによる進行、左手が32分音符の分散和音となる。ディナーミクは変奏全体通してフォルテである。オクターヴ、ディナーミクの両者からもたらされる力強い響きと、一貫した32分音符の急速なリズムにより、この変奏はクライマックスを形作っている。後半では、最後の4小節のうち、冒頭主題で両手が旋律を平行6度で示すところで、右手のオクターヴが32分音符の分散和音に変わっている。 第3変奏を終える第2括弧からコーダ。初めの9小節では、ほぼ常に楽章主調主音のG音が鳴らされているが、借用和音が多用されることで和声的揺れが生まれており、その結果、最終的なトニックの確立がより一層の安定感をもたらしている。その後、主音G音のオルゲルプンクト上で主題最後の4小節が変奏、反復される。ここでもまだ短調の響きが混じり、ヴェルフルが和声的色彩にかなり気を配る作曲家であったと思わせる。楽章末の4小節でも、一度V-VIの偽終止を通って全終止。 第3楽章 Rondo. Allegro 2/4拍子 ニ長調 8(4+4)小節のロンド主題は前楽節で半終止、後楽節で全終止する。各半楽節は対応関係にあり、最初の2小節は同じで、またそれぞれ第3拍目で旋律にターンの装飾記号が指示されている点も両者に共通である(なお、第2楽章までの主題でもターン音型が主要モチーフになっている)。冒頭8小節は直後に繰返され、その際、左手は16分音符のアルペジオ、強弱はpからfに変更される。第17-27小節はドミナントの保続音に支えられた挿入句で、旋律の動機は主題に基づいている。第27小節から主題が、前楽節は冒頭のまま、後楽節は繰返しの16分音符伴奏を伴う形で再呈示される。 属調の第1エピソードは両手ユニゾンの動機と主題旋律のターン+同音反復に由来する動機との応答で始まる。先行する楽章でもよく見られたように、動機の末尾から新しい動機によるゼクエンツが紡ぎだされ、低音の音階上行によって後続セクションへの移行となる。そして低音がドミナントに達すると同時に右手のヴィルトゥオーゾ的なパッセージワークが始まる。ここでは左手の伴奏が低音域と高音域を交替し、それによって響きの変化が生まれている。6連符のパッセージが左手に移ると、右手に主題旋律が断片的に現れて主題回帰を予想させるが、3回目の動機呈示に直結して、右手は再び6連符の分散和音に変わってしまう。このパッセージは主題終止カデンツの動機によって第68—69小節でイ長調に終止し、ゲネラルパウゼとなる。 再度ピアニッシモで高音に主題旋律が2回、主題回帰をほのめかすように断片的に現れるが、和声はニ長調の属七和音からvi度和音(変ロ音上短三和音)に移行し、またも主題回帰は先延ばしされる。主題冒頭小節の繰返しに直結して第80小節から主題再現。 第2エピソードはVI度調のロ短調である。リピート記号の後、第123小節の半終止まで旋律声部は右手にあるが、第124—127小節ではテクスチュアが変化し、第2エピソード冒頭の旋律動機の変形が両手間で模倣される。その後の和声進行がなかなか工夫されており、ロ短調の主和音からホ長調のドミナント―トニック(第一転回)へ、そして右手の半音進行により増六和音(g1-d1-eis2-h2)が鳴らされ、ロ短調の終止カデンツになる。 再び主題が第27小節以降の短縮形で短く呈示されたのち、第3エピソードに入る。冒頭はfzの決然とした両手和音モチーフ4小節と、和音モチーフの変形及び旋律的な終止の身振りから成る4小節の計8小節がまとまったフレーズを成す。和声に関しては、嬰へ音からロ音までの左手の半音上行が先行楽章を思い起こさせる。この半音進行のために、調性はいまひとつはっきりとはしないが、右手が旋律的な動きになると共に二長調が確定的になり、第147小節で音楽は一度イ音上に半終止する。ゲネラルパウゼを挟んで第148小節から、奏者の演奏技巧の見せ場と言えるような右手の急速なパッセージが繰り広げられる。和声的には途中に短調の響きが挟まれるものの、概ね主調ニ長調が保持されている。第158小節から16分音符のリズムが右手から左手に交替し、第161小節から主題旋律(主題第2小節の跳躍は上行から下行に変更)が右手に断片的に、高音域と低音域と交互に鳴らされ、第168小節以降は、跳躍動機のみが連続する。これまでも移行部分でしばしば見られたと同じように、第172—177小節でも右手が半音上行し、楽章の最後のセクションを準備する。ここでヴェルフルは、音楽の流れを突然切り替えるような工夫をしている。すなわち、新しいセクションの第178小節で、右手を直前のc音から2オクターヴ以上高音のa2から始めている。こうした虚をつく音域移動は、響きの多様性、形式の明確化、さらには楽曲にウィットを加えるという効果も果たすだろう。第181小節で半終止したあと、残りの部分は主題旋律動機に基づくゼクエンツ、右手の分散和音と左手の和音伴奏による主調ドミナント―トニックの反復、フォルティッシモの主和音、と、第1楽章のコーダとよく似た構造で楽章が閉じられる。
第1楽章
調:ニ長調
動画0
解説0
楽譜0
編曲0
第2楽章
調:ト長調 総演奏時間:5分10秒
動画1
第3楽章
調:ニ長調 総演奏時間:4分30秒
ピアノ・ソナタ 第2番 第3楽章
ピアノ・ソナタ 第2番 第2楽章
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