自由な形式による5ページの小品である。アレグロ、4分の4拍子、ハ長調。表紙には
Moyen(中級)とあり、学習者によるとりくみも想定されている。両手による和音の交互
奏を主体とする開始部ではハーモニーの精妙な変化のみからなる楽想が続き、次第に両手
を巧みに連携させたのびやかな旋律や、高音域での軽快な旋律が断片的に現れ、活発に展
開する。頻繁に転調するが、遷移は追いやすい。比較的落ち着いたメトロノーム表示(四
分音符=116)からすると、メカニックな運動性を強調しすぎるよりも、狭い音域内での
洗練された和声の移ろいを生かし、淡く紗をかけたような音響を目指すのも一案であろう
。
本作は当時13歳のマチュー・ゴネ(Matthieu Gonet, 1972 - )に献呈された。ゴネは幼少
期にガブリエル・タッキーノに才能を見出され、1982年(10歳)にはモーツァルトの少年
時代を描いたテレビドラマ(フランスの民放TF1にて放映)の中でクラヴィーアを弾くモ
ーツァルトの手の役を務めるなど早くから活躍していた。のちに14歳でパリ音楽院への入
学が許されたゴネは、イヴォンヌ・ロリオらに師事して研鑽を積み、1990年代にはミュー
ジカルやポピュラー音楽にも進出して作曲家、指揮者、ピアニストとして名声を確立した
。現在は映画、テレビへの楽曲提供を中心に活躍している。映画音楽の近作には「レジェ
ンド・オブ・ゴースト~カンタヴィル城と秘密の部屋~」(オスカー・ワイルド原作
。2016年)、「マダムのおかしな晩餐会」(2018年11月に日本でも公開)などがある。