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ナザレ :ブレジェイロ

Nazareth, Ernest:Brejeiro

作品概要

楽曲ID:18441
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:種々の作品
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

執筆者 : 小林 由希絵 (1295文字)

更新日:2018年3月12日
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1893年、ナザレが30歳の時に作曲。この曲は、21歳の時に発表した〈はち鳥〉に続く大ヒットとなり、彼の名前をさらに有名にさせたナザレの初期を代表する曲である。 タイトルの「ブレジェイロ」とは、「ろくでなし」という意味。副題には「タンゴ」と添えられている。 「タンゴ」というと、アルゼンチンのイメージが強く、ブラジル出身のナザレとは結びつきにくいように思われるが、ナザレはこの曲を皮切りに数多くの「タンゴ」もしくは「ブラジル風タンゴ」と題された曲を発表している。その中には〈Odeon〉や〈Fon-fon!〉などナザレの作品の中でも特に有名なものが多い。 ナザレの表現する「ブラジル風タンゴ」とは一体どのようなものだったのだろうか。 まず、ブラジル風タンゴを考えるに当たって、「タンゴ」と聞いてよく思い浮かぶアルゼンチンタンゴから見ていくことにしよう。 アルゼンチンタンゴは、ヨーロッパからキューバを経由して南米大陸に来た「ハバネラ」のリズムに、アフリカ大陸から奴隷として連れて来られた黒人たちのリズムが混ざり合った「ミロンガ」がルーツと なっている。 一方、ブラジル風タンゴは、アルゼンチンタンゴと同じく「ハバネラ」をルーツに持つところは共通しているが、アルゼンチンタンゴとは異なり、「マシシェ」というリズムの影響を受けている。 この「マシシェ」とは、19世紀にリオ・デ・ジャネイロで生まれ、ブラジル中で流行した舞曲。ヨーロッパの宮廷舞曲であった「ポルカ」と、黒人たちのリズムが融合したもので、2拍子系の速いテンポが特徴である。 ブラジルとアルゼンチンという、同じ南米大陸にありながらも別々の国で育まれた2つのタンゴであったが、 奇しくも同じような発展の遂げ方をする。それは「踊るための音楽」から「聴くための音楽」へとなったということである。その立役者となったのがアルゼンチンタンゴでは、かの有名なアストル・ピアソラ。そしてブラジル風タンゴでは、このエルネスト・ナザレだったのである。ピアソラが「聴くための音楽」としてタンゴに革命を起こしたのは、20世紀も後半になってからのことだが、ナザレがブラジル風タンゴを「聴くための音楽」として地位を確固たるものにしたのは、20世紀初頭のできごと。ナザレは、ピアソラより50年も先駆けて、ブラジル風タンゴに「革命」を起こしたのだ。  次に、曲の構成について見て行きたい。 ナザレの楽曲の大半はA-B-A-C-Aのロンド形式で書かれているが、この曲はA-A'-B-A-A'という形式で書かれている。 Aの部分は、ふわふわっと軽やかな印象のイ長調。続くBは、イ長調の属調であるホ長調へと転調し、華やかな空気に一変する。曲の全体を通して、ブラジルらしい南国風な雰囲気をまとっており、ナザレらしさがふんだんに盛り込まれている。   この曲の人気っぷりは凄まじかったようで、歌詞が付けられ、〈O sertanejo enamorado〉というタイトルで更にヒットしたという。大西洋を渡り、パリ共和制警備軍軍楽隊のレパートリーになったという逸話さえ残っている。

執筆者: 小林 由希絵
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