ナザレ :カヴァキーニョよ、がんばれ
Nazareth, Ernest:Apanhei-te,Cavaquinho!
執筆者 : 小林 由希絵 (1170文字)
1914年作曲。ト長調。ポルカ。 「カヴァキーニョ」とは、ブラジルの民族楽器のひとつで、ウクレレによく似た(ルーツは同じポルトガルのブラギーニャという楽器)4弦の小さな弦楽器のこと。ブラジルの民族音楽「ショーロ」には、なくてはならない存在である。 ショーロは、サンバや「ブラジル風タンゴ」と並んで、ナザレの作品を語る上では欠かすことのできない存在であるが、まだまだ日本では馴染みが薄いため、ここでショーロについて少し触れておこうと思う。 ショーロとは、19世紀後半にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで生まれたポピュラー音楽で、ポルカなどヨーロッパの宮廷舞曲と、ブラジルの民族音楽が融合してできた音楽である。シンコペーションなどブラジル民族音楽特有の要素と、三部形式などクラシック音楽にも通ずる宮廷舞曲のなごりが見てとれる。同じブラジル民族音楽であるサンバは、明るく陽気なイメージだが、それとは異なり、ショーロは優雅で爽やかでお洒落な印象が強い。 楽器の編成は、先ほど述べたカヴァキーニョの他に、フルートとギター、それにタンバリンによく似た打楽器のパンデイロ、バンドリンや7弦ギターなどの弦楽器が入る。 ナザレと同様ブラジル・クラシック界をの大御所ヴィラ=ロボスも、ショーロをこよなく愛しており、〈ショーロ集〉を発表している。ここからもショーロがブラジル国民に広く愛されている音楽なことがお分かりいただけるだろう。ナザレもショーロ演奏家たちと長年に渡って親交があり、この曲の他にも〈Ameno Reseda〉などショーロの作品を数多く残している。 この曲の左手の伴奏形はまるでカヴァキーニョをつま弾いているかのように書かれており、右手の旋律は高音部を16分音符が優雅に軽やかに舞い、ショーロ・バンドに登場するフルートを彷彿とさせる。ショーロは、先述したように通常6〜7人で演奏されるものだが、ナザレはピアノひとつでショーロ・バンドが演奏している様を表情豊かに洒落っ気たっぷりに表現している。 1930年には、Odeon Parlophonにてナザレ本人による演奏でレコーディングが行なわれ、さらに人気が高まり、1940年代に入ると海を渡り、アメリカのハリウッドの映画関係者スティーブ・レースの耳に留まり、ディズニー映画「サンバの精(Blame it on the Samba)」に起用されるまでになった。 今もピアノはもちろんのこと、他の編成にアレンジされて、多くの人々に愛されている。 ちなみに、とても軽快な曲なためか、作曲された当初から腕自慢のピアニストたちがこぞって早弾きを競い合ったそうだ。本来ショーロは、優雅でお洒落な音楽なため、ナザレ自身は、この曲の早弾き自慢に関しては、「もっとゆっくりと弾くべきだ」と主張していたようだ。
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