アンダンティーノ・カンタービレの嬰ヘ長調、4分の4拍子で開始するこの作品は、1879年に作曲され、翌年出版された。この作品は、1881年にリストのすすめによるとされる管弦楽を伴うピアノの版も出版されている。また、3つの部分が有機的に関連付けながら主題の変容の過程を経る手法がとられていることからも、リストと結び付けられることがある。
作品の全体を通して、テンポを初めとした楽想表記の変化が目まぐるしい。そこには、変更を表わすメトロノーム記号に「rit.」等の変化を表わすものも加わっている。このようなテンポの変化を大きく捉えると、冒頭のアンダンティーノ・カンタービレ→アレグロ・モデラート→アンダンテ→アレグロ→アンダンテ→アレグロ・モデラートと緩急の変化がつけられていることがわかる。また、多声的な手法が特徴的である。メロディーはこの手法により巧妙に扱われ、声部の間を縫うように歌われることもあるため、これを浮き立たせるように響かせることが求められる。更に、左手が奏する低音は転調に際して重要な役割を果たす。
ちなみに、この作品はマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』に登場する架空の作曲家、ヴァントゥイユの作品のモデルとなったと言われている。