ギリシャ語で4を表わす《テトラtetra》にこだわった作品集。浅川作品には言葉遊びがよく見られるが、これもその一つと言えよう。テトラポッドと言うと海辺に並ぶ消波ブロックが思い浮かぶが、元来は四足獣(主に陸生高等脊椎動物)を意味する言葉である。
この曲集には、「アルパカ」「ポニー」「ゼブラ」「ボンゴ」の4曲と、付録として「ギャロップ」が収められている。
「アルパカ」「ギャロップ」以外の3曲は、〈社法〉日本作曲家協議会を通じて、子どものための作品として発表されたものが元になっており、作曲者によると「チェルニー30番程度で楽しめる」ということであるが、筆者の経験からは、それは少し厳しいと思われる。
1. Alpaca(アルパカ)
Moderato sogno di l’alpaca(モデラート、アルパカの夢のように)で始まる。アルパカは南アメリカ大陸の高原地帯で放牧されている、良質な毛を利用するために品種改良された家畜である。アルパカの夢・・・とあるように、少し気怠さの感じられる部分と、快活に走り回る部分が交錯する曲である。
2. Pony(ポニー)
Moderato mormorando(モデラート、つぶやくように)で始まり、すぐにAllegro polkaで軽い曲調となる。中間部はPosato all’ nigro spirituals(黒人霊歌風に、落ち着いて)とある。再現部の「アレグロ・ポルカ」の左手部分はかなり演奏困難なので、適宜音を省略するなどの工夫が必要かも知れない。最後に冒頭部分が再び出現する。
3. Zebra(ゼブラ)
Allegretto all’improvista(アレグレット、即興曲風に)の前後部分と、alla Mazurcaの中間部から成る。前後部分は太い音で力強く演奏する。また、中間部は「マズルカ風に」とあるが、あまり深く考えずに、誰でも踊れる3拍子の舞曲と捉えれば良い。
4. Bongo(ボンゴ)
ボンゴはアフリカに生息する牛科の動物で、準絶滅危惧種である。現在では、アフリカを起源とする打楽器の名前としての方が、おそらく有名であろう。この曲はブギウギのリズムで書かれており、自由にスイングすることが推奨されている。しかも作曲者の意図するテンポは、かなり速めである。中間部はAndante all’ gospel(アンダンテ、ゴスペル風に)となる。打楽器のボンゴなどと、即興で共演しても楽しいだろう。
5. Galop(ギャロップ)
ギャロップとは馬が全速力で走ることを意味するのだが、この曲はTardamente(のろく)で始まりAllegro con serioso(速く、まじめに)へと続く。中間部Flebilmente e impaziente(悲しみに満ちて、辛抱できずに)は僅か8小節だが、全速力で駆けている様子を表現するようにしたい。この曲には、その前の4曲のモチーフが使われており、曲集を追想しつつ、静かにピカルディーの三度で締めくくる