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ヴェルフル : ピアノ・ソナタ 第1番 イ短調 Op. 6-1

Wölfl, Joseph : Sonate für Klavier Nr.1 a-moll Op. 6-1

作品概要

楽曲ID:17414
献呈先:Ludwig van Beethoven
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:19分50秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (2)

総説 : 丸山 瑶子 (248 文字)

更新日:2018年3月12日
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1798年成立、同年出版。ベートーヴェンに献呈。ヴェルフルはベートーヴェンとのピアノ競演で後者の次席に着いている。こうした背景からも、両者が良い意味でのライヴァル関係にあったことが伺える。  三作品とも急―緩―急の三楽章構成、調性はイ短調―ニ長調―イ長調であり、第1番に短調を置く点がベートーヴェンのOp. 2と共通である。全体的に見て、技巧的なパッセージワークが多く、クラヴィーア・ヴィルトゥオーゾのヴェルフル自身、または被献呈者のベートーヴェンが弾くことを想定して書かれたと考えて疑問はない。

執筆者: 丸山 瑶子

楽曲分析 : 丸山 瑶子 (2577 文字)

更新日:2018年3月12日
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No. 1  第1楽章 Allegro 4/4拍子 イ短調  ソナタ形式。幻想曲を思わせる即興的な身振りの分散和音による主要主題が、両手ともにヘ音記号で記譜された低音域で示される。上声部が高音に移ると転調が始まり、主題と対照的な4小節の挿入句(第20小節~)とそれぞれト短調、ハ短調による属九和音上の主題動機を経て、第29小節から平行調ハ長調の副主題に入る。とはいえここでは、旋律的な4小節の楽節によって調が確立されたあと、両手が交替で奏でるヴィルトゥオーゾ的な走句になるため、ハ長調領域全体は、閉じた主題楽節というより経過的な性格が強い。第56小節から楽章冒頭と同じく低音域で主要主題動機がやや変形され、半小節ずれて再現する。ヘ短調へ転調したところでピアニスティックな走句の挿入(第28小節)、そして再度、冒頭主題動機によって目的調ハ長調が確立される。呈示部を閉じる以上の一連の構成は、主要主題から副主題への移行と非常によく似ている。  展開部(第79小節~)では、初めにハ長調で呈示部のそれぞれの素材が変形されながら短く呈示される。第93小節で副主題群の走句がハ短調で現れ、転調が始まる。呈示部にはない新しい動機による5小節の挿入句(第99小節~)を経て、早くも第104小節で楽章冒頭主題が再現する。但しここでは楽章主調のドミナント上での再現である。その後もカデンツを回避しながら主題動機が繰返されて、主調回帰を決定づける低音の5度下行は第133—134小節、すなわち呈示部第20小節の挿入句に対応する部分まで先送りされる(但し調性自体は第120小節以降、イ短調から動かない)。このように楽章冒頭の主題楽節ないしは一部の動機のみ先に再現し、副主題再現の周辺で初めて主調に戻ることによって、再現部における副主題の調設定をスムーズに行うというのはハイドンなどによく見られる技法である。その後は楽章の終りまで、ほぼ型通りに呈示部が再現される。  第2楽章 Adagio ma non troppo 3/4拍子 イ長調  2部形式。前半の冒頭楽節(第1-8小節、A)は8(4+4)小節というシンプルな構造だが、半音進行が多く用いられ、和声的彩りが豊かである。第9—16小節(B)は主調から属調へ転調する移行部で、あまり旋律的ではない簡素な3度ないしは4度の順次下行動機を中心として書かれている。第3の部分(第16—25小節、C)は左手のアルペジオに支えられ、右手が付点リズムの生き生きとした動機を奏でる。C部後半は動機の音価が細分化される、和声変化が豊かになる、というように、前半に比べてより繊細に仕上げられている。和声については、低音に注目すると解りやすい。すなわちC部分前半とは対照的に、後半(第20小節以降)ではE-Gisの上行、Hからの下行が全て半音進行になっている。前半最後の4小節はカデンツでホ長調が確定される。  各部分の素材を見るとA部からC部へ向けて徐々に音楽の躍動性が高まるように構成されているのが分かる。最も端的なのは、4分音符ないし8分音符から16分音符、6連符という基本となる音価の変化である。こうした躍動性の高まりは、他にもディナーミクやシンコペーションにも支えられている。  後半(第29小節~)はA部の前半4小節のみが示された後、第25—28小節の素材による挿入句に続き、第36小節からC部の素材に基づく転調領域に入る。第42小節で楽章の主調イ長調に戻り(ただしais-hというロ調の導音進行が残る)、B部が回帰する。ここでは前半と対照的に右手、左手ともに6連符のアルペジオになり、順次下行動機はアルペジオの一部に組み込まれている。それによって後半部のリズムがほぼ全体にわたり統一されている。第49小節(C部)以降は、楽章の主調で前半部がほぼ文字通り再現される。  第3楽章 Presto 4/2拍子 イ短調  ロンドと変奏曲を合わせたような形式で書かれている。冒頭16小節の模倣的な主題楽段(A)と、続くイ長調の主題楽段(第16—40小節、B)は使われている動機だけでなく、主声部が両手に交互に現れるというテクスチュアにも共通点がある。ヴェルフルは両者にこうした共通点を持たせつつ、2回目以降の主題再現で、それぞれの主題の処理法を区別しているようだ。というのも、Aの主題が纏まって再現する時には概ね初出通りの形が保たれ、また中間部では主題操作の対象となっているのに対し、Bの主題は、主に主題全体が変奏されていくからである。  A、Bの両主題呈示の後、Aの再現、Bの変奏、そして再びA主題が第13小節まで呈示され、そこからゼクエンツを経て(第100小節~)、展開部的な転調領域に入る。ここではまず、主題冒頭動機から派生した4小節の楽想がA主題初出時と同じように両手に模倣される。そののち主題動機冒頭2小節が左手に集中的に現れ、右手は和声を支えるアルペジオを繰り返す。主題動機が右手に移ると(第133小節~)、左手による楽章主調の属音Eの保続音によって、第144小節に現れる主和音への到達が準備される。但し、典型的なソナタ形式とは異なり、転調領域で十分に動機操作が成されたイ短調の楽章冒頭主題Aではなく、イ長調のB主題と同時に主和音が回帰する。更にB主題の再現もここでは短縮され、転調領域に入る時と似たように、主題末尾の動機のゼクエンツを介して次の部分へ移行する。そうして第156小節からA主題の冒頭動機から派生した4小節の楽節が繰返される。これは3回目の呈示で突然、主和音第1転回和音に続くイ長調のカデンツに中断される。イ短調主和音から第156小節以降の楽節がもう1度繰返されて、今度はフェルマータ付きの減七和音上で、音楽の流れが一時停止し、コーダを準備する。  コーダは属音の保続低音上で始まり、A主題冒頭8小節の再現、第156—158小節とその変形による4小節楽節の繰返しが続く。以上の構成を考えると、第156小節から既にコーダに入っていると考えてもいいかもしれない。最後には主題を特徴づけるターン動機と順次上行動機も消え、属和音と主和音の和音交替のみとなり、ゲネラルパウゼを挟んで主調主和音が力強く鳴らされ、曲を閉じる。

執筆者: 丸山 瑶子

楽章等 (3)

第1楽章

調:イ短調  総演奏時間:8分20秒 

解説0

楽譜0

編曲0

第2楽章

調:イ長調  総演奏時間:7分30秒 

解説0

楽譜0

編曲0

第3楽章

調:イ短調  総演奏時間:4分00秒 

解説0

楽譜0

編曲0

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