古典的なソナタ形式である。イ短調の主音と属音の反復からはじまる一風変わった響きを持つ第1主題は、ピアノの低音域により pp ではじまりヴァイオリンが表情豊かに旋律を受け継ぐ。2度目はチェロとピアノにより f で奏され、やがて力強さを持つ豊かな響きに到達する。移行部は、主題と同じリズム型を伴いつつも3拍目にアクセントがある舞曲的な特徴を持ち、ff でしばらく力強さが保たれる。複付点のリズムを持つ短い動機が移行部のなかであらわれる。ひとたび変ロ長調で、第1主題の変形がヴァイオリンで穏やかに奏されるがまた ff に戻り、ふたたびト長調で第1主題の変形がチェロで奏される。引き延ばされたチェロの旋律はそのまま独奏的な性質を伴い、第2主題へと受け継がれる。力強い第1主題とは対照的なハ長調の第2主題は、穏やかなコラール的な響きを持つ。静かに響くピアノの四和音のうえに飾らない美しさを持つヴァイオリンの旋律が奏でられる。移行部に登場した複付点の動機を境に、第2主題が弦楽器のユニゾンにより ff で朗々と歌い上げられる。
第1楽章 アレグロ イ短調 4分の3拍子
展開部は、冒頭とおなじようにピアノの低音で第1主題の動機の変形があらわれたあと穏やかな第2主題の動機がヴァイオリンで奏される。静けさはすぐに一変し、低音の第1主題の動機のうえにヴァイオリンの和音の反復とピアノの激しい分散和音の旋律が重なる形となる。激しさはいっとき影を潜め、つぎは第2主題の動機を用いた輝かしく熱情的なホ長調のクライマックスに到達する。第1主題の動機がホ長調で繰り返されながら静まっていき、やがて主音と属音の断片、最後は主音のみとなり ppp で展開部は終わる。
再現部が定型通り奏されたのち、コーダのはじめ20小節間は展開部と調が異なるだけで全く同じであり、もう一度展開部が奏されるのかと惑わされるが、第2主題の動機はやがてヴァイオリンとチェロの美しい対話へと引き継がれる。第1主題の動機が断片だけとなり、やがて主音だけとなる結びは、展開部の結びと同じである。この楽章のコーダは、熱情的な展開部を縮小したものといえる。
第2楽章 スケルツォ ニ短調 4分の3拍子
トリオを中間部として持つ複合三部形式である。このスケルツォの特徴はなんといっても、隣り合う2音の反復という至って単純な音型が動機として扱われ、主部(第1部と再現部)全体を通して貫き通されることであろう。メノ・モッソの指示のある中間部は、32小節間ものピアノ独奏により変ロ長調ではじまる。長い独奏はソリスティックなわけではなく、第1拍と第2拍は左手で低音のトニック・ペダルを連打し第3拍は右手で主題の旋律線を最高音に持つ和音を奏すという簡素なものである。引き続きピアノが同様に奏しながら、旋律線は弦楽器のユニゾンにより明確に描かれる。中間部の主題は様々に転調されながら展開し、中間部の後半にさしかかると、反復音型がピアノの低音でドローンのようにあらわれる。この反復音型がピアノの右手と左手で交互に奏され再現部にいたる。コーダは、中間部の後半と同様に反復音型のうえで中間部の主題が奏され、最後は弦楽器のトレモロとピアノの単純な音型の上行により簡潔に閉じられる。
第3楽章 ラルゴ ヘ長調 4分の2拍子
緩徐楽章は、変奏曲的な装飾を伴う変則的な複合三部形式といえる。「たくさんの表現を伴って」と指示された主部の主題は素朴で美しい旋律である。主題ははじめピアノで奏され弦楽器がそれに加わる。中間部は同主調のヘ短調ではじまる。力強さを内に秘めた中間部の主題は、順次進行を伴う点では冒頭の主題と共通している。中間部の主題に主部の主題が重なり高揚し、イ長調のクライマックスに向かう。再現部は、弦楽器で奏される主題こそ穏やかであるが、ピアノに多彩な細かい装飾が施されている。最後は、ピアノの装飾を伴いながら静かに収束する。
第4楽章 フィナーレ イ短調 4分の4拍子(序奏など4分の3拍子の箇所もある)
終楽章は、序奏を伴う大掛かりなソナタ形式である。序奏は、第2楽章のスケルツォと、オペラのレチタティーヴォのような劇的な性格を持ったヴァイオリンの独奏が交互にあらわれる。提示部は技巧的なピアノ独奏により開始される。第1主題もまたピアノにあらわれる。ピアノの16分音符の細かい動きを伴い高揚し、つぎは弦楽器が第1主題を熱情的に奏す。第2主題のはじめはメノ・モッソの指示があるが、行進曲風な主題はあたかもいままでの登場人物が勢揃いして歩み進めているようである。第2主題はその性格から、旋律的な第2主題Aと3連符のリズムを持つ快活な第2主題Bにわけられる。展開部は4つにわけることができ、第1部はハ長調で第1主題の展開、第2部からは様々な調に転調する。第2部は、第1主題の付点のリズムがピアノで奏されるうえで、弦楽器に第2主題Bが先にあらわれ第2主題Aと絡み合う。第3部は、行進曲風である第2主題の展開であり、第4部は第2部とほぼ同じ構造を持つ。
再現部が奏されるとピアノのトレモロの轟が割り込み、第2主題Bの動機を呼びかけとして、序奏とおなじようなレチタティーヴォの旋律がヴァイオリンにより奏される。コーダは非常に激しい。4分の3拍子プレスティッシモとなり第1楽章第2主題の動機がイ短調となり、ヴァイオリンで声高に叫ばれる。そのあと 4分の4拍子に戻り、終楽章の特徴である付点のリズムは最後まで速度を増していく。終楽章の第1主題の動機が弦楽器で奏され、終盤は半音階で下行していき壮大な三重奏曲の幕が下りる。