ブギウギの小品5点よりなる。これ以前にも雑曲集の中にブギウギ調の曲を含めた例はあるが、全篇をブギウギでまとめたアルバムはこれが初。ロシェロールがブギウギの書法に明るいことを強く印象づける。作曲者のいとこへの献呈(To my cousin, Karen Carpenter Niklaus)。ただし、カーペンターズの妹カレンとは別人。序文には「私は9歳のころにはもうブギを弾き始めていた。両親の友人であったニューオーリンズの故カーヴァー・ブランチャードが私にブギの複数のパターンを教えてくれ、私は今までずっとそれを忘れずにきた。池に小石を投げ込めば、波紋は想像を超えてどこまでも拡がっていく。ありがとうカーヴァー」とある。ジャズ発祥の地、ニューオーリンズ育ちのロシェロールはクラシックのレッスンと並行し、クラシック以外のジャンルにも広く親しむ幼少期を過ごした。序文の通り、その道のプロ直伝で体得したブギウギやブルースのエッセンスを生涯の糧とし、のちの創作に存分に生かしたのである。本作はチェルニー30番練習曲のレベルでブギウギの基本パターンに無理なく親しむもの。ロシェロールの友人ジュリー・リヴァースは、ピアノにドラムとベースを加えたジャズバンド編成でこの曲集の第3曲および第4曲を商業録音したが、普通に弾く分にはそこまで凝らなくてよい。ドラムレス、ベースレスでも曲は成立する。バーバーの遠足、バーンスタインのウェストサイドなどの例を挙げるまでもなく、クラシック畑の者であっても、アメリカ音楽の取り組みにブギウギへの理解は欠かせない。「ジャズ・ハノン」「ブルース・ハノン」と並ぶレオ・アルファッシーの名著「ブギウギ・ハノン」にも比肩する実用的な一書と言える。
第1曲 Down-Home Boogie ダウンホームブギ(With gusto, 4/4, G major)
第2曲 Sweet-Talkin’ Boogie スウィートトーキンブギ(Moving along, 4/4, D major)
第3曲 Boogie Blast ブギブラスト(Fast and sturdy, 4/4 C major)
第4曲 Laid-Back Boogie レイドバックブギ(Easy does it, 12/8, F major)
第5曲 Steppin’-Out Boogie ステッピンアウトブギ(With energy, 4/4, C major)